インタビュー:保科和賀子 Part 1

Saturday 5 July, 2025

イベントでのチャリティ活動を行う「W Style(ダブルスタイル)」を主宰し、暮らしの美意識を発信し続けている保科和賀子さん。家具メーカー・アルフレックスジャパン社長のご主人とともに、アートやインテリア、器との丁寧な関わりを日常に取り入れています。今回は東京のご自宅で、アートと暮らしの関係についてお話を伺いました。

空間と響き合うようにアートが飾られると、 その場に豊かさが生まれます。

ご家族やご友人との時間を大切にされている保科さん。ご自宅にアートを飾る際には、どのような基準やこだわりを大切にされていますか?


自宅は、家族がリラックスできる場所でありたいと思っています。だからこそ、アートも“心がほっとする”ことを大切に選びます。見ているだけで優しい気持ちになれたり、頑張ろうと前向きになれたり。そんな感情を引き出してくれるものが自然と増えていきました。
それから、アートをどこに飾るかを考える時間も、私にとって大切な楽しみです。空間の中でいちばん心地よく“収まる場所”を探して、実際に置いてみながら少しずつ調整していく。そうすることで、作品がより輝く瞬間があるんです。

ご主人は家具やライフスタイルに携わる仕事をされています。アートとの関係で工夫されている点はありますか?

夫が家具の仕事をしていますので、季節や新作インテリアの入れ替えにあわせてアートも少しずつ変えます。たとえば、玄関のガラスのテーブルの上などに、枝物や花を飾ったりもします。今なら、イースターの時期に合わせて、その象徴である水仙が描かれた作品を飾っています。(編集注:インタビュー時に、ガラステーブルには水仙が描かれた作品が飾られていました)季節や空間に合わせて、花を生けるような感覚でアートを選ぶのも、ゲストへのささやかなおもてなしになると感じています。
もちろん、「収まった」と一度思えた配置は、あまり変えずにそのまま残すこともあります。一方で、その時の気分やお迎えする方に合わせて変えられる部分には、柔軟に手を加える。その“ちょっとした変化”も、暮らしの彩りになりますね。

「収まった」と感じる瞬間について、もう少し詳しく教えてください。

作品に惹かれて購入し、自宅に飾ってみて「やっぱり買ってよかった」と思えたときですね。飾る場所は事前に想定していることが多いですが、実際に置いてみると違和感を抱くこともあります。光との関係やサイズが空間に合わないと感じることもあるので、場所や高さを調整したり、連作であれば2つの距離を変えることで印象が大きく変化することがあります。収納家具とのラインを揃えるなど工夫を加えると、空間全体が整って見えることもあります。まるでその作品のためにあったような場所に気持ちよく収まって、そのアートがより輝いて空間が良くなると、とても嬉しくなります。

 ご自宅を拝見していると、アートが「飾るもの」だけでなく、おもてなしの一部として機能している印象を受けました。アートが人とのつながりに深く関係していると感じた瞬間はありますか?

ゲストを迎える際は、心地よい時間を一緒に過ごせるように、空間、お料理、器、そしてアートも含めて全体を整えています。たとえば、一緒に出かけたときに観た作家さんの作品や、一緒に行った国の写真など共通の体験にまつわるアートを飾ることで話のきっかけになることがあります。そうすると、「これ、あの時の!」と会話が自然に始まったり、「あの旅行は楽しかったね」と記憶が引き出されるきっかけになったり。そうしたコミュニケーションを意識しながらアートを選ぶことは、私にとっても楽しい時間です。

ゲストを迎える際は、心地よい時間を一緒に過ごせるように、空間、お料理、器、そしてアートも含めて全体を整えています。

河口湖と東京のご自宅で、アートを飾り替えされることもあるかと思います。どのようなタイミングで行っているのでしょうか?

山梨、河口湖にもう一つ拠点と仕事場があって、数年前から山梨と東京の2拠点で暮らしています。どちらの家でも、家具を変えたり、レイアウトを変えたいと感じたときが、アートを見直すきっかけになることが多いです。

ソファ自体を変えなくてもカバーを変えたり、ラグを変えたり、ソファを対面形式からL字型に変えてみると、それに合わせてアートの位置も調整が必要になるのです。

アートフェアに行き、まさにその時にぴったりの作品を発見することがあり、出会えた楽しさと飾り替えのタイミングが重なるとご縁を感じます。また、置きたい場所に合うものを探しながら、サイズ感とイメージを思い描いてアートフェアを見る楽しさもあります。

アーティストへのコミッション作品もお持ちとのことですが、どのような経緯で依頼されたのでしょうか?

河口湖の家には40年近く前に義父が建てたヨーロッパスタイルの集合住宅があり、そこのライブラリールームに何か飾れないかと考えていました。たまたま訪れた展覧会で、原田郁さんというすごく面白いコンセプトの作家さんに出会い、小さなピースをまず購入しました。原田さんの作品がとても気に入ったため、次は大きな作品を同じ空間に合う形で作っていただけないか相談したところ、快く引き受けてくださいました。家の建物や窓から見える森の写真をお送りしたところ、私たちがはじめに購入した小さな作品も新作の中に組み込むという素敵な提案をいただきました。ちょうど発売50周年を迎えたソファがあり「絵の中にこのソファも入れてもらえますか?」と相談してみたところ、遊び心をもって反映してくださいました。とても思い出深い作品になりました。

東京の自宅には、ベルリン在住のアーティストRyu Itadani(板谷龍一郎)さんの作品があります。この絵は、自宅のダイニングとキッチンの窓から見える景色を3部作にしてもらい、「東京2020」というタイトルになりました。

公園の木々や遠くに見えるビル群の他、本当はその窓からは見えないはずのアルフレックスのショールームが入っているビルも紛れ込んでいるのがとても面白いんです。言われないと気づかないような遊び心のある構成も、とても気に入ってます。

アートを購入・配置する時、ご家族とも相談されますか?

幸運なことに夫とはライフスタイルや好きなものの感覚が似ているので、相談しながら決めています。たまに意見が分かれることもありますが、話し合って納得できることが多いですね。自分だけで選んで購入した作品は、実は人生で初めて買ったシルクスクリーンの作品くらいかもしれません。息子たちの意見を聞くこともあります。家族みんなが幸せでいてほしいから相談することが多いですし、アートを通じた会話が楽しいと感じています。

息子たちも小さい頃からアートに関心があり、「これ何に見える?」「どっちの色が好き?」とよく話をしていました。ベルリンに住むRyu Itadaniさんのアトリエに、イギリスで暮らす息子と一緒に行こうかという話が出たこともあります。

作り手の存在を身近に感じ、リスペクトする姿勢を自然に持つようになったのは、アートとの日常的な関わりがあったからかもしれません。

<近日、インタビュー後半も公開予定です。最初に購入されたアートや、印象的だったギャラリストさんとのエピソード、ご自宅の作品にまつわるお話などを伺いました。お見逃しなく!>

Photos by Yasutaka Ochi

保科和賀子

チャリティイベントを通じて子どもたちを支援する活動「W Style」を主宰。アルフレックスジャパン社長の夫とともに、家具やアートを通じて心豊かなライフスタイルを提案している。器を扱う仕事をしていた両親の影響で、食器や花器、焼き物への造詣が深く、全国の個展や窯元を訪ね歩く。若手作家の作品にも目を向け、積極的に応援している。

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