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コレクターインタビュー: 竹内真 Part 1

Thursday 17 April, 2025

グループ会社にビスリーチなどを持つ、ビジョナル株式会社で取締役CTOを務められたご経験を持ち、東京・西麻布のレストラン「ISSEI YUASA」などを経営するアートコレクター竹内真さんにお話を伺いました。
2024年には東京「WHAT MUSEUM」で、竹内さんが収集した現代アートを展示したTAKEUCHI COLLECTION「心のレンズ」展が開催されました。

自分の中での価値観の変化が面白い

音楽活動もされていた竹内さん。そのご経験もアートのコレクションに影響はあったのでしょうか?
音楽をやっている時に、まだ無名のイラストレーターやアーティストが周りにいたので、影響はあると思います。
現代アートの文脈ではなくて、彼ら彼女たちが書いている作品をすごく安い値段で買って、それを家に飾るっていうのは当たり前にありました。それが現代アートの文脈の世界に繋がっていったと思います。

何かの表現があった時に、その表現が生まれてきた考え方、ポリシー、スタイルなどがあったし、音楽と絵で残していく形の表現の手法は違いますけど、やっぱりすごく近いものはあると思います。創造性みたいな意味で言えばすごく刺激も受けます。

初めて作品を購入された時のエピソードを教えてください。
ちょうど初めて自分で家を買ったタイミングで、「持家になったら、壁に穴開けても誰にも文句言われないだろうな」と気付きました。「絵をかけたりしたいな」という漠然としたところから、何をかけたいか考えたら、最初に、家にモネ飾りたいなと思って。
「モネってどこで買えるんだろう?」と思って調べたら、オークションで買えることがわかったものの、見たらとんでもない値段でした(笑)。「これはちょっと厳しいな…」と思っていたら、インターネットで、モネのドローイング(素描)が出てて、すごく安かったんです。

わからないなりにオークションに参加して、入札しようとしてみたら、とんでもない値段になってしまいました。予測を大幅に超えていく入札を横目に、「これを買ってもいいんだろうか…」と思いながら、結局落札できずに終わり、どうしたらいいのか、呆然としました。しばらく探しましたが、同じような作品は出てきませんでした。

でも、「こうやって絵を買うことも飾ることもなく過ごしていくのはよくない。何でもいいから飾ろう」と思いました。だから、次のオークションで出てるものを何か買おう、と決めました。それで参加したオークションでピカソを見て、「ピカソは知ってる」と。その時はエッチングだとかエディションだとか、まだよくわかっていなかったのですが、偽物ではないだろうと思い、なんでもいいから、とりあえずこれと思ったものに入札したら、たまたま落札できて、そこからが絵を買い、飾るみたいなことのスタートでしたね。

若手アーティストのサポートをされていることについて教えてください。

若手のアーティストを応援するのは、数年前が1番僕の中で最盛期で、今はごく一部のアーティストだけ応援しています。若手だと日本人が多かったですね。当時、自分も音楽だったり、作り手としてやってきたのですが、ビジネスの方に軸足を置いていました。アートの作家って、原則的にはそんなにすごいビジネスマンではないと思うんですよね。

どちらかというと、自分しかできない表現をこう探求しているような方の方が多い。それはそれで、そういう生き方って素敵だなって思います。自分が選ばなかった生き方をしている人がいるっていう印象でその作家の作品を買うと、なんとなくその後も見る。その作家がどういう風な人生を経ていくのか、自分が選ばなかった人生だとこういう風になるんだっていうことを、もらっている感じがありますね。

作品の見方は変わりましたか?

だいぶ変わりましたね。結局最初は何がなんだかわからなくて、自分にとってはピカソも現代作家も同じくくりでした。それが、近代、現代っていう区分けや、具象、抽象、表現主義、ダダイズム、といった色々な表現方法を知り、結局この業界にいると積極的に学ばなくても知ることになってしまう運命にありますね。分類された世界の中で、結局自分はどこが深く好きな部分なんだろうと掘り下げていって、抽象の世界に興味をもって、抽象プラス少しだけコンセプチュアルのところに、今の自分のメインのテリトリーがあるような感じがします。

抽象の世界って、さらにその一部に、なんとなく、侘び寂びがあると感じます。やはり日本人として近い感覚のものがそっちの方に多いのかもしれません。作品に対して、いいなと感じると、どうも自分はこういうものにルーツを持ってるのかもしれないということを、逆に教えてもらうという感じはあります。

印象的だった作家・ギャラリストのエピソードはありますか?

思い出すのは、オークションに参加した後、それは「セカンダリー市場」と言って、他に「プライマリー市場」というのがあって、ギャラリーで売ってるんだと聞いた時。人との繋がりで、ギャラリーに行き始めた初期の頃、ペロタン東京に行く機会がありました。面白い名前(フランス語)だなと思いながら行って、ちょっと話をしたり、色々作品を見たりしていたら、たまたま作家の加藤泉さんが来て、駆け出しコレクターの立ち位置でお話をしながら、「こういう人が作家なんだ」と。それが世界のマーケットの中でポジション持ってる日本人作家との初めてのコミュニケーションです。

もう1つは、タカ・イシイギャラリーで、ある作家の個展を見に行った時に、作品を見て、わからなくて、これはどうしたらいいんだろうと思ったことがありました。「これは僕がわかる日が来るんでしょうか。」「いや、きっと来ると思います。」というやりとりをしたこともあります。

最近また久しぶりにタカ・イシイギャラリーでの同じ作家の個展があって、前よりいいねって思っちゃう自分がいるっていうことに驚きます。面白いなって。

やはり時間をかけて、たくさんのアート、アーティストと交流すると、「この人しかない」っていう所在地みたいなものが見えてきて、一貫性が強い人はすごいと思います。

アートをコレクションする中で、ご自身の価値観の変化はあったのでしょうか?

人生を懸けて極まった表現を続けてる方を時間とともに見続けていると、ぐっと来て、面白いです。
パッと見ではよくわからない作品を初見ですごいと思える人は、ちょっと変わってると思いますが、やはり時間をかけて、たくさんのアート、アーティストと交流すると、「この人しかない」っていう所在地みたいなものが見えてきて、一貫性が強い人はすごいと思います。

アートを購入するときに相談する相手はいますか?

相談できる人は何人かいますが、原則は1人で決めます。悩んだら、あまり買わないですね。知っている人に相談というか、調べたいことを尋ねることが多いです。若手作家を応援していると、僕の主観で、あんまりストイックさがなくなっちゃったとか、残念だと感じる変化をしていく人も結構いるように感じます。

何年か見ていて、ストイックさとバランス感みたいなものを両方持ってないと、アーティストとしてやり続けられないんだろうというのがわかってきました。今、若手作家の作品を買おうと思ったら、どれぐらい根性座ってたりとか、マーケットの風に吹かれない人かどうかとか、貫けるかどうか、などを知っていそうな人に聞いたりします。作品がいいと思っても、応援したくなくなることが1番嫌なので、今はそこをすごくよく見てますね。でもちゃんとマーケットの中でも成功して欲しいとも思っています。

作家さんとの直接交流はあるのでしょうか?

もちろん交流はあります。仲のいい作家さんも、年上年下、日本人、外国人に関わらず交流がありますが、どちらかと言えば僕はあんまり会いたくない方かもしれないです。作品の説明ついては作家本人なのかギャラリストなのかはあまり関係ないと思いますし、ギャラリストの方が僕にわかりやすく伝わるように説明してくれる気がします。

作品購入時のこだわりポイントを教えてください。

本当にユニークの作品を買っていく方が、作品に対して想いを持って買えますね。どうしても立体よりは平面の方が飾りやすいから、増える傾向はありますけど。飾ることをベースに考えているので、飾りにくいモチーフ、非常にグロテスクな表現とかは、アートとしての素晴らしさとは裏腹に、飾れる壁を持ってないと感じて、あんまり買わないかもしれないですね。家にも飾ってる抽象表現の作品は、ミニマルだったり抽象だったりします。抽象も、ごちゃごちゃしてるものよりは、さらっとしたというか、味が濃くなさそうなやつの方が多いかもしれないですね。

今うちのリビングには、モネのペインティングをメインに飾ってるんですけど、別の壁に置いている他のものも、モネの雰囲気を崩さないものです。中心となる作品・部屋があって、どうするかを考えます。飲食店もそうですが、壁があって、まずこれを何にするか、それからあとどうする、という感じで決めてますかね。

インタビュー時のレストラン、ISSEI YUASAで飾られている、フランシス真悟の作品。

こちらの壁はこの作品がメインです。時々変えてるんですが、アートを掛け替えるときは、やっぱりここから考えます。
フランシス真悟さんは、高根枝里さん (Tokyo Gendai フェアディレクター) の紹介で出会って、これはコミッションで作ってもらった作品です。彼の作品も精神性もかなり近いところにあると思うので、すごく好きです。今は真悟さんの作品をメインにして組み立てています。
この空間は、あんまり濃くない感じ。こちらが紺で、ゴーンと来るので、透明のニュアンスや、ホワイトグレーみたいな感じだったり。お互いにあまり干渉しないようにしています。

竹内真 Shin Takeuchi Profile

1978年生まれ。新卒後富士ソフトに入社し、主に官公庁や大手通信会社向けのシステム開発に従事。フリーランスを経てビズリーチの創業準備期に参画し、ビジョナル取締役CTOおよび一般社団法人日本CTO協会理事を務める。現在はメドレー取締役の他、複数の企業の経営に関わりつつ、個人では首都圏を中心にいくつかのファインダイニングを手掛ける。

<近日、インタビュー後半も公開予定です。資産としてのアート、日本と海外の現代アートシーンについて、そしてTokyo Gendaiへの期待などを伺いました。お見逃しなく!>

 Photos by Yasutaka Ochi