Photo by Björn Comhaire
1993年、東京生まれの Clara Spilliaert /クララ・スピリアールトは、16歳でベルギーへ留学後、自分の心のズレを理解する手段として、絵を描き始めました。
現在はベルギーのゲントを拠点に、セラミック、彫刻、インスタレーションを取り入れながら、身体や神話、自然をめぐる触覚的な探求を続けています。
今年のTokyo Gendaiでは、アントワープのKeteleer Galleryとともに新作を発表予定。このインタビューでは、クロスカルチュラルな背景や、影響、そして近年の制作をかたちづくる素材やアイデアの変化についてお話を伺いました。
“二つの国を行き来することで、当たり前だと思っているけれど、実は疑問を持っていいのでは、ということに気づかされます”
東京で生まれ育ち、2009年にベルギーへ留学されたとのことですが、東京とベルギーを行き来したご自身のバックグラウンドについて少し教えてください。それは Clara さんの芸術的な視点にどのような影響を与えたと思いますか?
私は姉と、日本人の母、母方の祖父母、ベルギー人の父と一緒に東京の郊外で育ちました。子供の頃は虫や山登りが大好きでした。16歳の時、父の母国に留学したのですが、文化と気候の違いにかなりのショックを受けました。なんとか精神的に生き延びて、自分なりの言語を獲得するために、狂ったように絵を描き始めたんです。その葛藤の中で、その後の人生に不可欠となる大きな喜びを見出しました。
自然界が創作の大きなインスピレーション源のひとつになっていると思いますが、普段どのようなな場所や状況で自然を感じているのでしょうか?
アトリエがあるゲントの家の庭が大好きです。自然は、家の外だけでなく、
自分の身体を目にする浴室や、蜘蛛やセイヨウシミなどの小さな虫に出会う地下室にも存在します。そういう生命と、その変化の様子を観察しています。
自然以外では、どのようなところから着想を得ることが多いですか?
広告表現によく刺激を受けます。広告は人の視線がよくわかって興味深いです。日本に帰るたびに、広告に襲われるような気がします。体毛をテーマにした‘Hairy Tale’(2023)は、脱毛広告を出発点に制作した作品です。二つの国を行き来することで、当たり前だと思っているけれど、実は疑問を持っていいのでは、ということに気づかされます。
現在取り組んでいるプロジェクトについて教えてください。新たに試している素材や技法、探求してみたいアイデアなどがあればぜひ教えてください。
最近は目が回るほどたくさんの新しい素材に挑戦しています!ブロンズ、蝋、シリコン、砂、コンクリート……挙げればきりがありません。8年間陶芸に専念してきたので、とても新鮮です。いろいろと試していますが、やはり粘土のように水だけで洗い落とせる素材が好きです。






絵、彫刻、インスタレーションなど、さまざまな媒体を行き来されていますが、それぞれどのように向き合って、それぞれどのような表現ができると感じていますか?
絵を描くということは、私にとってとても親密な行為です。感情と向き合う一番直接的な方法で、必ずしも展示する必要はないけれど精神衛生上大切なことです。彫刻やインスタレーションを通しては、作品を見る人々、ひいては世界との繋がりをより感じることができるようになりました。その延長にあるパブリック・アートも、地域の歴史にインスピレーションを受けて制作するのを毎回とても楽しく思います。
これまでに特に影響を受けた日本のアーティストや、伝統工芸、あるいはムーブメントなどがあれば教えてください。
楳図かずおさんを心から尊敬しています。小さな頃からホラー漫画を読んで、大きな影響を受けました。あとは日本の祖母が生け花をしたり、電話帳で押し花を作ったりするのを目にして育ったので、植物への興味は祖母から受け継いでいるのかもしれません。最近では、市原佐都子さんの舞台作品『バッコスの信女―ホルスタインの雌』に衝撃を受けました。表現方法は違っても、発想や関心に共通点があり、とても嬉しくなりました。



最後に、今回のTokyo Gendaiでの展示では、Claraさんのどんな作品が見られるのでしょうか?教えてください。また、日本の観客にご自身の作品を通じてどんなことを感じ取ってほしいですか?
今の時点ではまだ詳しくはお話しできないのですが、ここ数年、妊娠、医療におけるジェンダー不平等、痔など、「身体」をテーマに多くの作品を制作しているので、今回もその延長線上にあるものになると思います。日本で展示するのはCAF賞以来です。当時はまだコロナ禍で、人の移動や交流も限られていたので、今回また作品を発表できることを嬉しく思います。新作とともに皆さんにお会いできるのを楽しみにしています。
<ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiでまたお会いできるのを楽しみにしています!>
Clara Spilliaertオフィシャルウェブサイトはこちら。
Photo by Björn Comhaire
Clara Spilliaert
1993年東京生まれ。ベルギー・ゲントを拠点に活動するビジュアルアーティスト。2009年よりベルギーへ留学し、LUCA School of Artsにてドローイングと陶芸を学ぶ。7年間にわたって絵日記を描き続けたのち、現在は映像、インスタレーション、壁画、陶芸など多様なメディアで制作を行う。作品は文化的な現象の観察から生まれ、歴史、神話、自然、セクシュアリティといったテーマを探求している。





