アーティストインタビュー:大平龍一「作品づくりは常に実験です」

Tuesday 5 August, 2025

木は、人類が初めて利用した素材のひとつです。この創造の本能に導かれるように、大平龍一は木を使って、怪物や抽象的なトーテム、そして代表的なパイナップルのモチーフを大型彫刻として表現しています。本インタビューでは、アーティストになったきっかけや、パイナップルというモチーフにまつわる背景、そして9月に再び参加するTokyo Gendaiへの思いを伺いました。

「別に世界に見せなくてもいいんです。自分の中で納得できればそれで十分です」

アーティストになったきっかけは何ですか?

アーティストになったのは…知らないうちに、という感じです。小学生の頃、近所の絵画教室に通い始めて、小学3年生くらいから絵を描くようになりました。そこの先生はアバンギャルドというか、前衛芸術をやっていた方で、教室には画材と白い紙だけが置いてあって、何かをレクチャー受けることなく、好きなものを描くようなクラスでした。当時描いていた絵は、今思えばシュールなものが多かったです。先生とはとても仲が良くて、子どもの頃に岡本太郎さんと一緒に食事をしたこともあります。そういう体験もあって、アートが身近に感じられるようになったのだと思います。

彫刻を選ばれた理由をお聞かせください。

高校生のとき、美術系の予備校に体験入学しました。すでに美術に興味があって体験授業を受けたところ、先生に「色合いや描き込みがすごい。これで立体が作れたら最強だ」とすごく褒められて。その先生が彫刻家だったので、「じゃあ彫刻をやってみようかな」と思いました。もともと立体を作りたいという気持ちもあったので、自然な流れでした。

新しい作品を制作する際、一番楽しい瞬間はどんなときですか?

楽しいのは、作品が出来上がり、すでに次の展望が見えるときです。僕にとって作品づくりは常に実験です。一つ一つ実験して、失敗したら「次はこうしよう」と考える。アイディアは多分1年間で何百個も思い付きます。たとえば100個思い付いて、最終的に残るのは1個あるかないかくらいです。だいたい3年とか4年くらいのスパンで、メモを書いて壁に貼っておきます。翌日に剥がすものもあれば、半年後に剥がすものもあり、3年経っても残っているものもあります。そうして残ったものが、作品にする価値があると思えるもので、その実験結果が作品だと思っています。制作自体は作業に近いので、黙々とやります。別に世界に見せなくてもいいんです。自分の中で納得できればそれで十分です。

東京や日本で、インスピレーションを受ける場所や、創作意欲をかき立てられる場所はありますか?

特定の場所はありませんが、車が好きなのでよく一人でドライブに行きます。首都高など東京の高速道路を、特に目的地もなくぐるっと回って帰ってくることが多いですね。車は2台 – 外車と国産車 – どちらも古いタイプの車です。

「パイナップルは、どんなに真面目に作ってもどこか阿呆っぽいというか、少しふざけた感じがある。むしろ、それをどうやって哲学的に成立させるかが、現代アートでできることなのかなと最近は思っています。」

木を使った大きな彫刻作品を多く手がけていらっしゃいますが、こうした巨大な作品は普段どこで制作されているのでしょうか?

千葉県にある自宅のスタジオで作っています。ただ、そんなに広くないので、いつもギリギリです。天井や壁にぶつかりながら作ることも多いし、作品を外に出して、道路で作業することもあります。

作品制作の際に、ルーティーンや決まった習慣はありますか?

基本的には9時から5時まで制作しています。9時にスタジオに行って、アンプの電源を入れて音楽をかけるところから始まります。音楽はテクノとクラシックが多いですね。今は子どもがいるので、保育園や小学校に行っている間だけが制作時間です。平日のその短い時間に集中して制作して、5時には必ず家に帰って子どもと過ごします。土日は仕事をしません。

作品にパイナップルのモチーフをよく使われていますが、これにはどのような意味や背景があるのでしょうか?

パイナップルは、2019年のコロナ禍に三越コンテンポラリーギャラリーで展覧会をしたときに登場しました。いろんなモチーフを逆さまにした作品を展示したんですが、その中のひとつがパイナップルでした。なぜかすごくしっくりきて、今も理由はわからないんですが、だからこそ作り続けているのかもしれません。西洋絵画や静物画では、リンゴやブドウといった果物がよく描かれます。それらは物語性や哲学的な意味を持つモチーフですよね。でもパイナップルは、どんなに真面目に作ってもどこか阿呆っぽいというか、少しふざけた感じがある。むしろ、それをどうやって哲学的に成立させるかが、現代アートでできることなのかなと最近は思っています。

パイナップル自体はお好きですか?

いや、味は…梨の方が好きですね。

ご自身の作品を、観客にはどのように感じ取ってもらいたいと思いますか?

割と自由に見てほしいです。「こう見てほしい」というのは特にありません。年齢や職業によって、人生経験や価値観は違うと思うので、それぞれの視点で自由に感じ取ってもらえたら嬉しいです。そういうふうに見てもらえる作品が、良い作品だと思います。

NANZUKAとTokyo Gendaiへの参加は今回で2回目ですね。Tokyo Gendaiについてメッセージや感想があれば教えてください。

Tokyo Gendai、僕は好きですよ。Tokyo Gendaiは世界中からギャラリーが集まっていて、日本で高水準な現代アートが見られる唯一の国際アートフェアだと思います。本当に素晴らしいフェアができたと思うし、そこに出展できたことを光栄に思っています。まだ参加していない有名なギャラリーもたくさんありますが、「東京で展示したい」と思えるような場になればいいなと願っています。

ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiでまたお会いできるのを楽しみにしています。

編集部注:現在大平龍一の大型彫刻作品が現在 ゴジラ・THE・アート展 の一環として、SHIBUYA AXSHにてパブリックアートとして展示されています。作品は夏の間、引き続き公開予定。詳細はこちら

Photo by TOKI

大平龍一

1982年東京都生まれ。2011年に東京藝術大学大学院で博士号を取得。近年はArt Basel Hong Kong(2019–2025)やDIG SHIBUYA(渋谷、2025)のメインアーティストを務めるなど、多くの展覧会やプロジェクトを通じて様々な形で作品を発表。2022年の個展『SYNDROME』(NANZUKA UNDERGROUND)では、合体ロボットのように擬人化されたパイナップルのアバターとでも呼ぶべき大型木彫作品を発表。2023年にはTokyo Gendaiの立ち上げを記念し、大型インスタレーション作品『The Circuit』を発表。

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