Tschabalala Selfが語る、制作の進化とその過程

Tuesday 19 August, 2025

ニューヨーク州ハドソンバレーを拠点に活動する Tschabalala Self は、絵画、版画、縫製などを組み合わせ、女性像を立体的に描き出す独自の表現で知られています。彼女の作品は黒人女性としてのアイデンティティの複雑さをテーマに、ファインアートとクラフトの伝統を横断しながら、コラージュを「自我の層の重なり」のメタファーとして用いています。
9月のTokyo Gendaiでは、Galerie Eva Presenhuberとともに作品を発表予定。今回のインタビューでは、彼女の技法の進化と、作品を通して鑑賞者に委ねたい直感的な解釈について語ります。

「今使っている技法は、人の形成プロセスを映し出すもので、アイデンティティや自己というテーマに強く結びついています」

アーティストになりたいと思ったのは、いつからですか?

物心ついたときから、ずっとそう思っていました。家族の肖像画や風景画、油彩やアクリルでの絵など、小さい頃からずっと作品をつくってきました。とても自分自身に関わる内容が多かったと思います。

現在の制作技法について教えてください。

今使っている技法は、さまざまな布素材を用いたコラージュ的な手法で、イェール大学での大学院時代に確立したものです。絵画の支持体そのものがイメージの一部となり、人が形成されていくプロセス—獲得したもの、受け継いだもの、付随してきたもの—をなぞるような構造になっています。このプロセスは作品のコンセプトとも深く関わっていて、とくに「アイデンティティ」や「自己」というテーマに強く結びついています。

作品に登場する人物は、自己の投影なのでしょうか?

彼女たちは複合的なキャラクターです。自分自身に由来する部分もあれば、これまで出会った人々、フィクションの登場人物、ポップカルチャーからの影響もあります。それぞれの人物像は想像上のものですが、さまざまな要素が混ざり合ってできているんです。

色やパターンのインスピレーションは、どこから得ていますか?

日常生活のなかからです。特別にインスピレーションを探しに出かけることはなくて、家にいても買い物中でも、ふとした瞬間にアイデアが浮かびます。とても直感的なプロセスですね。

アトリエでの1日は、どのようなスケジュールですか?

隣町にあるスタジオで制作しています。自宅と分けることが、私にとってはとても大切です。月曜から金曜まで、朝10時から夕方6時までが基本のスケジュール。現在進行中の作品に取り組むか、アップリケのパーツを制作しています。アップリケは、絵画に縫い込まれる人物のパーツで、コラージュ的に構成されています。インスピレーションがある日もない日も、決まった時間にスタジオにいることで、自然と制作が前に進む気がします。

スタジオの中にはどんなものがありますか?

主に制作中の作品と素材、そしてアート関連の蔵書です。アーティストのカタログが100冊以上あり、制作中にアイデアが行き詰まったときなどにとても役立ちます。ほかの作家がどのように作品を作っていたのか、キュレーターや研究者がどう読み解いているのかを知ることで、自分自身のコンセプトも整理されていく気がします。

「一番大事なのは、好奇心と変化を受け入れる姿勢を持って作品と向き合ってもらうことです」

ご自身でもアートをコレクションされていますか?

友人や新進アーティストの作品を中心に、時々過去の作家の作品も集めています。自宅にはそういった作品を飾っていますが、自分自身の作品は置いていません。どうしても気が散ってしまうので、制作中のものはすべてスタジオに置くようにしています。

現在、取り組んでいる新しい表現はありますか?

10年ほど前に使っていたモチーフを再訪しています。人物の背後に「境界的な空間」を生み出す、抽象化されたフォルムです。さらに、リノリウム版画の技法にも立ち返り、手彫りのスタンプを直接キャンバスに押すことで、パターンを強調した背景を作っています。プリントの美学を絵画に持ち込むような感覚ですね。また、これまで人物の部分だけだったコラージュを、背景全体にも応用し始めています。

今年のTokyo Gendaiでは作品を出展されます。来場者には、どのように作品を見てほしいですか?

まずは、自分の直感を信じてほしいです。第一印象は、とても大切です。もちろん、私の意図や影響源を知っていただくのも嬉しいですが、それはあくまで補足として捉えていただけたらと思います。一番大事なのは、好奇心と変化を受け入れる姿勢を持って作品と向き合ってもらうことです。

<ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiでの展示を楽しみにしています。>

Tschabalala Self’s のウェブサイトは こちら

Tschabalala Self

1990年、ハーレム生まれTschabalala Selfは、縫製、プリント、絵画など多様な技法を組み合わせ、女性像を力強く描くニューヨーク拠点のアーティスト。ペインティング、版画、立体表現を横断しながら、自己とアイデンティティの複雑さを探求する。作品はGuggenheim美術館、LACMA、Whitneyなど、世界各地の主要コレクションに収蔵されている。

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