Ceysson & Bénétière Tokyo © Eaton Real Estate Corporation
2025年5月17日、Ceysson & Bénétièreが銀座に新たな 325㎡ のギャラリースペースをオープンします。ヨーロッパ各地やニューヨークに構える既存の8拠点に加え、Ceysson & Bénétièreの初のアジア拠点となるこのギャラリーは、ミニマルな侘び寂びの美学と日本の伝統工芸を融合。イロコ材のフローリングやコールテン鋼のエントランスアーチを備え、谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼讃』から着想を得た、素材と光を生かしたデザインが特徴となっています。
オープニングを飾るのは、Supports/Surfacesの展覧会。Supports/Surfaces(シュポール、支持体/シュルファス、表面)とは1960年代後半に南仏で誕生した芸術運動で、素材そのものの可能性や非伝統的な技法を探求し、絵画を最も基本的な要素に還元しようとしました。理念を共に考案し、既成概念にとらわれない展示の在り方を模索し、実践していたアーティストたちの集まりが発端となった運動です。
Ceysson & Bénétièreはこの芸術運動を長年支援してきました。5月17日の東京オープンを前に、シニアディレクターのLeslie YouとディレクターのLoïc Garrierに、このラディカルな運動が初期の現代美術にもたらした意義、そして今日のギャラリストという仕事についてお話しいただきました。





ギャラリーを3つの言葉で表すとしたら?
Loïc
私たちのギャラリーをたった3つの言葉で表現するのはいつも難しいのですが、個人的には「ノンコンフォーマー(訳注:迎合しない)」「厳格」「献身的」と言うでしょう。
Leslie
私もまったく同じ意見です。ただ、ノンコンフォーマーとして、もう一つ加えるとすれば「情熱的」ですね。
Ceysson & Bénétièreの本質について教えてください。
Loïc
Ceysson & Bénétièreは、初期から現在に至るまで、Supports/Surfacesへのコミットメントで知られています。東京でのオープン記念展示は、まさにこのレガシーを体現するものです。現在では、私たちのギャラリーには、Bernar Venet、Nam Tchun-Mo、Lionel Sabatté, Aurélie Pétrel、Tania Mouraud、Nancy Graves、松川朋奈といった国際的なアーティスト約50人が所属しています。
Leslie
東京での初の展示は、私たちの歴史的な取り組みの延長線上にあるだけでなく、グローバルな観客との新たな対話を開く機会でもあります。私たちは長年にわたりSupports/Surfacesを支えてきた一方で、新しい世代のアーティストの挑戦や交流も積極的に後押ししています。この二つの焦点は、確立された巨匠と新進気鋭のアーティストをつなぎ、国や世代を超えた出会いを生み出します。活気あふれるアートシーンと国際的な発信力を併せ持つ東京は、このビジョンをさらに前進させるための理想的な舞台といえるでしょう。
ギャラリストをしていて一番楽しいことは何ですか?
Loïc
アーティストと密接に協力して展覧会を企画することは、いつもわくわくしますし、特権的に感じます。そして、こうした企画をいつも支持してくださるコレクターや機関パートナーと共有することも、やりがいがあります。そういうやり取りが、この仕事の中核となるものです。そしてそれが、若いアーティストのキャリアをスタートさせたり、実績のあるアーティストとの対話を通じて理解を深めたりすることにもつながります。こういう人間的で知的なつながりがあるからこそ、この仕事の有意義さを感じます。
Leslie
私にとっては、絶え間ない発見が、一番楽しい部分です。心に響く作品と出会ったり、オープニングの夜にすべてが一つに結びつく瞬間。その場に集う人々、アートやアイデアをめぐる対話、そして作品が会話を生み出し、視点を揺さぶり、ときにはただ感情を呼び起こす。こうしたエネルギーは本当に特別です。何が起こるか予測できないからこそ、毎日が楽しくて、満たされるのだと思います。
ギャラリストをしていて一番大変なことは何ですか?
Loïc
ギャラリストであるということは、常に一貫性と刷新の間の紙一重のところを進み続けるということです。単調な繰り返しに陥ることなく、常に改革し続けなければなりません。ある瞬間に、その時の一番時事に合った驚きやトピックを引き立たせること、そして空虚になりかねない一過性のトレンドに引きずられないようにすることです。キュレーションにおけるビジョンに忠実であり続けることは、日々の努力の積み重ねが必要です。
Leslie
この仕事は特に最近、大きく進化してきたと思います。急速な変化のスピードに適応し続けること、そしてギャラリーの中核となる価値観に忠実であり続けることは、ますます難しくなっています。一番難しいのは、クリエイティブとビジネスのバランスを見出すことです。アートへの情熱が私を突き動かしている一方で、ギャラリーを運営するという現実には、物流や財務の管理、アーティスト、コレクター、キュレーターとの関係構築といったさまざまな側面を調整することが求められます。さらに、絶えず変化を続けるアートマーケットに適応しつつ、ギャラリーのビジョンと歩調を合わせ続けることは常に挑戦です。それには、柔軟さと忍耐力、そしてアーティストと作品を大切に思う気持ちが必要です。
新しい才能の発掘と育成のプロセスについて教えてください。
また、どのようにアーティストを選び、その関係やキャリアを築いていくのですか?
Loïc
日常的な話し合いと直感の共有に基づくコラボレーションです。フランスでのレジデンスを通じて、私たちは、日本の松川朋奈や南アフリカのStephané Edith Conradieのようなアーティストをサポートすることができました。2人とも、アートフェアやリサーチのための出張などを通じて発掘したアーティストです。レジデンスは、彼らの作品をフランスのオーディエンスに紹介しながら、創作する時間と空間を提供しました。私たちは有機的に成長する関係を大切にしており、アーティストに野心的で長期的なキャリアを追求する自由さとサポートを提供するよう努めています。
Leslie
新しい才能を見つけるプロセスには、直感と戦略の両方が必要です。私自身が心から惹かれ、ギャラリーの価値観と響き合うアーティストを探しています。アートフェアでは、混雑する前の朝早くに会場を歩くことが多いです。そのほうが、今のシーンやトレンドをじっくり感じ取れるから。特に、新しいアーティストに光を当てるオフフェアや、小さめのフェアに惹かれます。また、コレクターやキュレーターとの会話の中から生まれる出会いも大切にしています。
私が大事にしているのは、アーティストが支えられ、思い切って挑戦できるような関係を築くことです。キャリアを育てるというのは、単にギャラリーで取り扱うだけではなく、キュレーションの視点で助言をし、知名度を高め、適切な人や機会とつなぐことだと思っています。目指しているのは、長期的で持続可能な成長。そのためには、関わり続けることと、柔軟さ、そしてアーティストのビジョンを信じる気持ちが大事です。
アーティストとのコミュニケーションで心がけていることはありますか?
Loïc
何よりも耳を傾けることです。スタジオ訪問は、アーティストの進化を目の当たりにしながら彼らの意図をより深く理解する機会で、ゆっくりと反芻できる時間です。こうした時間によって信頼関係が築かれます。私たちは、アーティストのビジョンを全面的にサポートし、各プロジェクトが創作意図にできるだけ沿うよう、細心の注意を払い、誠実に実現されるよう、最大限の努力をします。
Leslie
アーティストとのコミュニケーションは、信頼と相互のリスペクトが土台にあります。それぞれのアーティストのやり方に合わせて、明確に、丁寧に、そして柔軟に接することを心がけています。率直なフィードバックとオープンな対話は、アーティストが支えられていると感じて、安心して自由に制作できる関係を築くうえで欠かせません。アーティストの作品は、いわば彼らの子どものような存在です。だからこそ、スタジオという親密な空間を共有し、自分の作品を私たちに託すためには、安心感と信頼が必要だと思います。
東京/日本でお気に入りの場所はありますか?
Loïc
もちろんです!(新しくオープンするギャラリーは別として!) 代々木公園ですね。訪れるたびに行く場所です。そのスケール、調和の感覚、そして伝統的な日本庭園の美しさがあることで、独特の安らぎとインスピレーションを与えてくれる場所です。私にとっては、東京が持っている伝統と現代性のバランスを完璧に体現している場所だと思います。
Leslie
東京に住み始めて10ヶ月になりますが、お気に入りの場所がたくさんできました。静かで隠れ家的な場所から、エネルギーあふれるにぎやかな場所まで、本当にたくさんあるので、ひとつだけ選ぶのは難しいです。東京の何よりの魅力は、どのエリアにもサプライズがあることだと思います。お寺の裏にひっそりとたたずむ庭園、席がたった4席しかない小さなバー、あるいは Ceysson & Bénétière のように、新しいビルの上階に隠れたギャラリーなど。東京は毎日新しい顔を見せてくれます。それでも、ひとつだけ心が落ち着く場所を挙げるとすれば、根津美術館の庭園です。街の真ん中にあるとは思えないほど穏やかで、時間がゆっくり流れるような場所です。訪れるたびに心が整い、リセットされるような気持ちになります。
東京にギャラリーをオープンするにあたって、一番わくわくすることは何ですか?
Loïc
サン・テティエンヌと東京をつなぐ冒険です!東京にオープンすることで、私たちのプログラムをまったく新しいオーディエンスに紹介することができます。私たちは新しいスペースにふさわしい都市を探すために広範囲を旅しましたが、東京は文化的な活気にあふれ、美術史に深く根ざしている、明らかに気に入った場所でした。東京は、成長する上で非常に刺激的な環境です。
Leslie
東京は、伝統と現代が交わる特別な街です。ローカルのアーティストやコレクターとつながりながら、世界中の人々と対話することができます。この街のエネルギーは、新しい視点を生み、アートの世界を広げてくれます。さらに、フランスと日本は文化への深い理解と敬意を共有してきた長い歴史があり、日本はいまも世界中のアーティストに刺激を与え続けています。
銀座のCeysson & Bénétière Tokyoで初めて企画された展示について教えてください。この展示の背景にあるインスピレーションは何ですか?
Loïc
1960年代後半からのフランス美術の重要なチャプターであるSupports/Surfacesに特化した大規模な展覧会をオープニングに選びました。この歴史的な芸術運動を日本のオーディエンスに紹介する、力強く象徴的な展示で東京に進出することが重要でした。この展覧会では、13人のアーティストの代表的な作品が一挙に展示されます。一部だけ文字でご紹介すると、 Louis Caneの「Sol/Mur」、Noël Dollaの「mop-cloth installation」、Claude Viallatの「repeated forms」、Marc Devadeの「subtle ink paintings」、Daniel Dezeuzeの「ladder piece」、そして Bernard Pagèsの「Pile of Gravel」などを展示します。私たちのギャラリーのアイデンティティとルーツを力強く紹介できるラインナップです。
Leslie
Supports/Surfacesは、日本の前衛的な動向、たとえば具体美術協会とも自然に共鳴するものがあると思います。特にこの動向は、2000年に東京都現代美術館で開催された、ポンピドゥー・センター、ジュ・ド・ポーム国立美術館、パリ市立近代美術館との共同企画による記念的な展覧会でも取り上げられました。Supports/Surfacesを東京の観客に紹介することは、この二つの文化の歴史をつなぐ、自然なステップだと感じています。
オープニング展示、“SUPPORTS/SURFACES”





Supports/Surfaces展示は2025年5月17日(土)-2025年8月29日(金) まで。
場所:Ceysson & Bénétière Tokyo
東京都中央区銀座5-12-6 Cura Ginza 8F
営業時間:今後発表予定
休廊:今後発表予定
入場:無料
詳細は、Ceysson & Bénétière(英語)のウェブサイトにアクセス。
Gallerist Profile

Leslie You
Ceysson & Bénétière シニアディレクター

Loïc Garrier
Ceysson & Bénétière ディレクター