象徴性や、隠されたメッセージが込められたカラフルな作品を、様々な媒体で制作するKonstantin Bessmertnyは、旧ソ連のブラゴヴェシチェンスク生まれで、現在はマカオと香港を拠点に、カラフルなカオス、超現実の風景、矛盾や不条理といった特徴ある作品を生み出しています。
Tokyo GendaiではGallery EXITから作品を展示予定のKonstantin Bessmertny。作品を制作する上で大切にしていること、そして日本の魅力などを語っていただきました。
「自由は創造性の礎であり、充実した人生を送るために不可欠なもの」
アーティストとして活動していて一番楽しいことは何ですか?
アーティストをしていて最も楽しいことは、それがもたらす自由さです。自由は創造性の礎であり、充実した人生を送るために不可欠なもの。自分の価値観で創作し、自分の価値観に合わない機会や影響には自信を持って「ノー」と言える、エネルギーの根源です。
アーティストとして活動していて一番大変なことは何ですか?
シドニー・オペラハウスを設計した建築家、Jørn Utzonは、1978年に英国王立建築家協会で建築部門のロイヤル・ゴールド・メダルを受賞した際のスピーチで、「建築家の作品が好きなら、メダルではなく、彼に何かを建てさせることだ」と述べています。この感覚は、アーティストたちの心に深く響蜘蛛のだと思います。
特に第一線で活躍するアーティストにとって、展覧会、コミッション、プロジェクトといったチャンスがあるからこそ成長できるというのがリアルな姿で、そういったチャンスによって絶えず次から次へと挑戦の場を移し続けています。名声や富を求めるよりも、真の目標は、創造するチャンスそのものなのです。
一番大変なところは、その次なる挑戦のチャンスそのものを確保することです。企画書を書き、官僚、デベロッパー、ギャラリー、コレクターといったアート界の門番たちにプレゼンするには、膨大な努力と粘り強さが必要です。自分の作品を発表するチャンスを与えてくれるよう周囲を説得することは、時間のかかるプロセスであると同時に、アーティストのキャリアにとって大きなハードルとなり得ると思います。



作品を制作する上で、大切にしていることを教えてください。
私の場合、一番大事にしていることは、朝の日課を終えて、その日のToDoリストに入れた重要事項をこなした後に来るものです。その瞬間、外界での心配事や要求から自分を清めることができてから、スタジオに入ることは本当に神聖な体験だと思います。カラーパレットを整理したり、キャンバスやスケッチを準備したり、彫刻の道具を並べたりする作業は、神聖な寺院で瞑想の準備をするのに似ていると感じます。
作品には、日本のイメージや言葉を取り入れたものがあります。日本のどんなところが魅力的だと感じますか?
日本が魅力的に感じるのは様々な側面と理由があるのですが、特に、世界中の芸術と建築の両方に影響を与えてきた豊かな歴史と深い文化交流などが魅力的だと思います。19世紀半ば、西洋人が日本美術に触れた結果生まれた「印象派」や「ジャポニスム」という現象には特に興味をそそられます。ヨーロッパに伝わった小さな木版画は、ゴッホやマティスといった芸術家たちに大きな影響を与え、カルチャーショックが、いかに著しい芸術的革新をもたらすかを示していると言えます。
伝統的な日本家屋を模した日本館が展示された1893年のシカゴ万国博覧会は、日本の影響をさらに例証しているでしょう。目に見える空間と広大な屋根を持つこのパビリオンは、その後西洋のモダンでミニマルな建築を大きく形作ったと思います。
1992年からマカオとリスボンを行き来する生活を送ってきましたが、歴史、特に貿易を通じたつながりに深く魅了されます。最初のヨーロッパ人、特にイエズス会の司祭や貿易商が1543年に黒船に乗って日本に到着したことは、重要な文化交流の時代の幕開けとなりました。マカオは、ヨーロッパ、中国、日本を結ぶ重要な架け橋となり、ほぼ2世紀にわたって続いた南蛮貿易のきっかけとなりました。「南蛮」とは「南から来た野蛮人」のことで、日本人が初期のヨーロッパからの訪問者に対して観察した対照的な文化習慣を浮き彫りにしています。
この「野蛮人」という感覚は、日本を訪れるたびに私の心に響きます。場違いだと感じながらも、私は日本のデザイン、建築、組織システム、芸術、工芸の複雑さに魅了され続けています。私は、河鍋暁斎や横尾忠則のような、日本文化の美しさと複雑さを体現する芸術家たちを敬服しています。自分にとって、日本は伝統と現代性が調和した場所であり、イタリアと並んで大好きな旅行先のひとつです。
「アートの領域以外では、錬金術、宗教的象徴主義、哲学、言語、書道、文学、歴史に魅了されています」
ご自身の作品には、象徴性や隠されたメッセージがあふれています。作品に対する解釈で、作家であるKonstantin Bessmertnyさんを驚かせた人はいますか?
私の作品はおっしゃるとおり、象徴性に富み、記号論と視覚言語への深い憧れを反映して、隠されたメッセージが幾重にも重なっています。アートの領域以外では、錬金術、宗教的象徴主義、哲学、言語、書道、文学、歴史に魅了されています。私は自分の作品をコミュニケーションの器としてとらえ、あらゆる手段を駆使しているのです。
私は迷宮を創り上げることを楽しんでいるのですが、迷宮は、見る人を複雑な中を導くように誘い、中に入った人が自分自身の道を発見することを促すものです。アーティストは、自分の作品の意味や解釈をコントロールすることを放棄していることは認識していますが、鑑賞者がパズルの欠けているピースを見つけ、鑑賞者自身が目の前にあるものへの理解を深めるのを目撃することは、大きなやりがいをもたらしてくれます。
最近観た映画や番組を教えてください。
アートハウスや名作映画が好きです。お気に入りは「クライテリオン・コレクション」のシリーズで、現在は、黒澤明監督の作品をすべて見直し、彼の映画が持つ、卓越したストーリーテリングと深遠なテーマを楽しんでいます。



日本でお気に入りの場所があれば教えてください。
人気のある観光地が持っている魅力も楽しいのですが、実は、京都や東京の自分の秘密のスポットを紹介するのは、正直なところ、気が引けます。例えばマカオの観光密度が世界一で、1平方キロメートルあたり54万7,000人以上が訪れていることを考えると、現地で生活する人たちが、自分のお気に入りの隠れ家は教えたくない、というのはとても理解できます。
とはいえ、私がいつも訪れ、心からお勧めする場所のひとつが箱根の宮ノ下です。隠れた美術館、絶景の山道、息をのむような景色、そして素晴らしいホテルの数々。静かな環境は、完璧な逃避行をもたらしてくれますし、それによって日本の自然の美しさを純粋に体験できると思います。
<ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiで、作品にお目にかかれるのを楽しみにしています!>

©Konstantin Bessmertny, Courtesy of Gallery EXIT
Konstantin Bessmertny
1964年、旧ソ連のブラゴヴェシチェンスク生まれのKonstantin Bessmertnyは、現在アジアで最も活躍する著名なアーティストのうちの一人とも言える。30年以上のキャリアの中で、絵画、ドローイング、彫刻、インスタレーションを制作。ソビエト連邦のアカデミーで美術を学び、文学、音楽、歴史、政治など幅広いテーマについて思慮深く、また多様な文化的背景を持っている。作品は、色彩豊かな混沌、超現実的な風景、矛盾、不条理性といった特徴を持つ。