アーティストインタビュー:中島麦 色彩と出会う──DIVING INTO COLOR

Monday 13 July, 2026

重力に身を委ねるように流れる絵具、幾重にも重なる色彩、そして静かに立ち現れる奥行き。中島麦の絵画は、筆ではなく「色」と「時間」、そして私たち誰もが共有する自然の法則によって描かれています。デジタルな映像や情報が絶え間なく流れる時代だからこそ、中島が問いかけるのは、目の前にある色をただ「みる」という根源的な体験です。

本インタビューでは、独自の制作手法の背景や、「DIVING(没入)」シリーズに込められた思考、そして色彩の海へ身を委ねる創作のプロセスについて語っていただきました。作家の言葉に触れたあと、作品はきっと新たな表情であなたを迎えてくれるでしょう。

あなたの制作活動を、まだ作品を見たことがない人に向けて教えてください。

僕は抽象絵画を制作する事を中心に、そこから拡張する様々な出来事を取り込みながら活動しています。その活動を通して、私自身が何ものからも自由で、何ものをもつなぐメディウム(媒介)でありたいと考えています。とりわけ絵画の中では色彩の美しい振る舞いを探求しています。

10年ほど前から注ぎ口のついた容器でアクリル絵具を流し描く手法で絵画を制作しています。

傾けて固定したキャンバスにトロトロに溶いた絵具をゆっくりと注ぐこと、色材は画面を滑るようにゆっくりと流れ、時にはあっという間に側面をつたい、枠の外へと流れ落ちます。色の痕跡は時間をかけて少しずつ定着し、また乾燥後にキャンバスを回転させることで生まれる多重力とレイヤー構造は、物理法則から解放された色彩空間を描き出してくれます。いわゆる筆は使っておらず、絵具という色に特化した物質と誰もが体感しているはずである重力を用いて描くことは、普遍的な色の美しいありようを最大限に引き出せると考えています。

アトリエを大阪市街から自然を感じる場所へ移されたことで、移動のプロセス自体が「絵画時間」の一部になったと伺いました。この新しい環境は、具体的に作品の色彩や「奥行き」にどのような変化をもたらしましたか?

2025年の夏に15年ほど過ごした大阪市内の下町路地中にあるアトリエから、空が広く風が通り抜ける場所に制作拠点を移しました。

自宅がある大阪郊外の住宅地から自転車+地下鉄に乗って街中へ向かう出勤から、車で山を越えて通う日々へと変わりました。その道中、或るトンネルを抜けると空気がガラリと変わります。季節や天候の巡りで変化する風景に加え、霧の盆地と称されるその地域ならではのドラマチックな光の変化は、1000年前に都へ往来する人々も見たであろう景色とほぼ同じと考えると感慨深く、日々新鮮な気持ちでハンドルを握っています。

作品制作はアトリエの中だけで行う行為だけではありません。家族と過ごす日常生活、旅や展覧会の少し非日常な体験、そしてアトリエへの向かう道中などの生きている毎日が積み重なり絵に現れると思っています。環境が変わったことで制作に向かうプロセスを含めた絵画時間の中で感じる・見える色が格段に増えたように感じています。具体的な変化は場に馴染んでいく中で、より出てくるかな?と思っています。


作品タイトルでもある「DIVING(没入)」という言葉には、作家自身と鑑賞者の二重の意図が込められているそうですね。制作中にあなた自身が「色彩の海」へ没入する瞬間、キャンバスの上では何が起きているのでしょうか?

地球の理に沿った、未知との遭遇、かな。

制作において最もインスピレーションを受けるのはどんな瞬間ですか?

いわゆる「インスピレーションが降ってきた〜!」 的な劇的な瞬間は、あまりありません。

2番目のご質問にもあるような、日々の移動中の出来事はもちろんですが、沈む夕陽をいつもより美しく感じたり、息子たちと虫を探している時に見つけた石が面白い形をしていたり、馴染みのない街を歩いているときに見つけた古びた壁が抽象絵画に見えたり、無意識に切った野菜の断面の種のコンポジションが絶妙だったり、巨匠の展覧会で隠しきれない作家性を表面以外(側面や背面)に感じることができたり…。

小さな機微に気づけたら1ポイント貯まる感覚で、一定のポイントが貯まったら、ブワ〜って絵が描けるような(笑)、その積み重なる無意識から溢れ出した何かを洞察できた時が、インスピレーションを受けた瞬間なのかもしれません。

今回のTokyo Gendaiで、デジタルな体験が溢れる現代を生きる観客に、作品を通じてどのような「根源的な体験」をしてほしいと願っていますか?

目の前にある色の美しさを通して「みる事」をもう一度。

僕の作品は光ったり動いたりしているわけでもないし、物語を紡ぐような事象があるわけでもないし、読み解くような記号は描かれていません。そこにあるのは色の出来事だけです。

僕が本格的に絵を描き始めた頃に出会い憧れた絵画史を切り拓いた抽象表現の巨匠達は、往時からこの世には居なかった。また彼らが生きていた時代から比べたら視覚メディアの多様化は凄まじく、五感に訴え没入感を味わえるモノが身近にある環境で僕たちは生活しています。そのような2020年代に絵を描く理由、とりわけ抽象的な作品を制作する理由はなんなのか、ずっと自問自答しています。

しかし自らの身体性を介して描くリアリティーは、技術がどう発展しようが大きくは変わらないし、人は観て触れて感じることが重要な生き物だと思います。「みる事」と「色」の美しさへの探究、絵具で描かれた絵画の存在理由は、鑑賞者の純粋な体験を伴うことで根源的な体験になると願っています。

ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiでの展示を楽しみにしています。

中島麦が誘う、色彩の世界を、会場で。

会期:
2026年9月11日 (金)〜13日 (日) *ヴェルニサージュは9月10日 (木) 

会場:
パシフィコ横浜

ブース:
YUMEKOUBOU GALLERY

チケット購入先: 

中島 麦(なかじま むぎ)

Nakajima Mugi

抽象絵画を制作する事を中心に、そこから拡張する出来事を取り込みながら活動中。

その活動を通して、私自身が何ものからも自由で、何ものをもつなぐメディウムでありたいと考えている。

絵画の基本要素である「動き・奥行き・光」の色彩を探求、近年はそこに物質が重力により流れる時間を加える作品を制作。

個展、企画展、アートフェア、コラボレーション、プロジェクト等展示多数。

長野県生まれ 大阪育ち 大阪/京都拠点。

京都市立芸術大学美術学部油画専攻 卒業

HP : https://nakajimamugi.com/

Instagram :@nakajimamugi2025neo

 

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