スコットランド出身のKatie Paterson は、時間や地質、宇宙といった壮大なテーマを、詩的で参加型のアートを通じて探っています。制作の中心にあるのは Deep Time: 地球の歴史における想像を超えるような時間のスケールという概念です。氷河が溶けゆく音を記録した作品や、100年かけて完成する図書館プロジェクトなどを通じて、私たちと自然とのつながりや、この世界における自分自身の存在を問いかけます。
今年9月、Katie Paterson はIngleby GalleryとともにTokyo Gendaiに出展予定です。本インタビューでは、彼女の視点を形づくった太古の風景や、抽象的な概念を五感で感じられる体験へと変えるアートの力についてお話いただきました。
作品では Deep Time というコンセプトが扱われています。Deep Time に最初に関心を持ったのは、アイスランド北部で客室係として働いていたときだと伺っています。その風景のどういったところに興味を引きつけられたのでしょうか?
あの太古の風景に身を置いたことで、自分たちが地球という惑星に生きていることを、初めて強く実感しました。白夜、噴き上がる間欠泉、地層の重なり、すべてを包み込むような光。そうした風景の中に、時間そのものが刻まれているように感じました。自然の中に眠る膨大なスケールと時間の流れを感じ取り、それが私の世界の見方を一変させました。そしてアートを通して Deep Time をどう伝えるか、という旅が始まりました。
地平線をかすめて戻ってくる白夜のような現象は、私にとって初めての体験で、地球が宇宙にある無数の星のひとつにすぎないことを実感させられました。岩に見える地層や、時間が止まったように感じられる広大で静かな風景は、Deep Time につながる感覚を直接与えてくれました。その視点は、その後の氷河や星への興味を通して、さらに深まっていきました。
ご出身のスコットランドは地質や時間への関心にどのような影響を与えたと思いますか?
スコットランドの古く風化した風景や豊かな自然に囲まれて育ったことが、時間や地質、そして場所への意識を育ててくれたと思います。各地に点在するストーンサークル、重なり合う地層、今も続く伝統文化。そうしたものが、静かだけれど力強く、自然のリズムや歴史の流れを感じさせてくれました。
あの広大で静かな風景は、地球のゆっくりとした変化を考えるきっかけになりました。岩が何百万年もの時間を抱えていること、光が荒野を横切る動き、侵食が静かに時間を刻むこと。そうした体験を通して、私は地球の過去とつながっているような感覚を得ました。
こうした体験を通して、私は地球の過去とつながっているような感覚を持つようになり、今のアート観の土台が築かれました。私にとってアートとは、地球や時間、そして宇宙における私たちの存在といった大きな問いに向き合う方法です。この「存在のスケール」への興味は、まさにスコットランドという故郷に根ざしていると思います。



Future Library (2014,下図参照) は、ノルウェーの森を舞台にしたユニークなアートプロジェクトです。毎年一人の作家が未発表の原稿を寄稿した作品を2114年まで読むことなく保管しその年、森に植えられた木を使って紙が作られ、ようやく本として印刷されるという構想です。ご自身が完成を見ることのない作品をつくることについて、どのように感じていますか?
Future Library にを作ることで、自分という存在を超えた何かの一部になっているような、不思議で謙虚な気持ちになります。同時に、それはとても希望に満ちた体験でもあります。このプロジェクトは、日々や年単位ではなく、何十年、何百年という長い時間の流れで物事を考えるよう促してくれます。信頼と忍耐に支えられ、自分の生きる時間を超えて続いていくものです。
自分が完成を見届けられない作品をつくることには、特別な意味があると思います。作り手のエゴを手放し、時間をかけることや続けていくことの大切さに目が向きます。変化の早い今の時代において、Future Library は静かに立ち止まる場でもあります。これは、未来を思い描きながら、その未来に向けて手を差し伸べるアートのかたち。不確かなものを受け入れ、次の世代の創造力や思いやり、好奇心を信じるという行為でもあるのです。


作品には、存在そのものを問うようなテーマが多く見られます。そうしたなかで、人間や社会に対して希望を持っていますか?
Deep Time や消失、環境危機といったテーマを扱いながらも、私は希望を持っています。Future Library のようなプロジェクトには、根底に楽観性があります。未来の世代を信じ、思いやりを持ち、言葉を託す。森を植え、まだ見ぬ人々に作品を預けるという行為そのものが、希望の表れだと思います。
私にとってアートは、可能性を育て、新しい物語を生み出すための手段です。人間には創造力や共感力、想像力がある。それこそが、困難で不確かな時代においても、前向きに考える理由になると信じています。私たちは、過去と未来をつなぐ存在であり、これからも地球やお互いを思いやる力は続いていくと信じています。
“アートには、地質学的な時間や宇宙の距離、生態系のサイクルといった広大で抽象的な概念を、身体で感じられる体験へと変える力があると思います”


作品には詩や哲学のような深みがありますが、科学や言葉とは異なる形で、アートは、どのような気づきを与えてくれると思いますか?
アートには、地質学的な時間や宇宙の距離、生態系のサイクルといった抽象的でスケールの大きな概念を、身体で感じられる感覚的な体験へと変える力があります。そうすることで、私たちは世界と知識的に向き合うだけでなく、感情的にも直感的にも関わることができるのです。こうした理解の仕方は、科学や言語だけでは得られないものだと思います。
アートの実践は、曖昧さや可能性、不思議さといった、科学の中では扱いづらいものを受け入れる余地をつくってくれます。私たちが完全に理解できないことを表現する手段であり、現象との関係性を変え、知識を「感じる」「想像する」「生きる」ものに変えてくれるのです。私にとってアートは、個人的な経験と普遍的なものをつなぐ言語のようなもの。Deep Timeと個人の感覚を結びつけ、実験的な思考や自由な想像を可能にしてくれます。それは、従来の理解の枠を越えるための方法でもあります。
このようなコンセプチュアルアートとは、正しい見方や解釈はあると思いますか?
私の作品に「正しい」あるいは「間違った」解釈があるとは思っていません。人それぞれが、自分の経験や記憶、視点や想像力を持って作品と向き合うものだと思います。私の作品は、さまざまな受け取り方ができるように開かれたものであり、詩的でも、哲学的でも、科学的でも、あるいはとても個人的な反応でもいい。そうした内省のきっかけになることを目指しています。私にとって大切なのは、その人の中に何かが生まれること。抽象的だったり遠く感じられるアイデアに、感情的につながれるような体験を生み出せたら、それで十分なのです。もし作品が感情を呼び起こしたり、新しい視点や考え方を促したり、世界の中に「今、ここにいる」という実感をもたらすことができたなら、その作品は役割を果たしていると思います。
作品を通して、観る人にどんなことを感じ取ってほしいと思いますか?
驚きや好奇心、そしてつながりの感覚を持ち帰ってもらえたら嬉しいです。Deep Time や宇宙、絶滅、地球のリズムといったテーマに触れる中で、少し立ち止まって考えたり、圧倒されたり、ときに謙虚な気持ちになれるような体験をつくりたいです。
<ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiでの展示を楽しみにしています。>
Katie Paterson
1981年生まれ。スコットランド出身のアーティスト。時間や宇宙、地質スケールといった壮大なテーマを、詩的かつコンセプチュアルに表現する作品で知られる。地球の歴史や自然とのつながりを想像力豊かに描くプロジェクトを多数発表。これまでに世界各地で展覧会を開催し、主要な美術館や個人コレクションに収蔵されている。現在はエディンバラのIngleby Gallery、ニューヨークのJames Cohan Galleryに所属。





