光と夢が描く、もうひとつの時間。 Apichatpong Weerasethakul インタビュー

Sunday 6 September, 2026

夢と現実、記憶と現在、見えるものと見えないもの。その境界を静かに揺さぶるアピチャッポン・ウィーラセタクンは、映画を起点に、光、映像、音、インスタレーション、VRなどを横断しながら、独自の時間と空間をつくり出してきました。そこに現れるのは、個人的な記憶や夢だけでなく、土地に眠る歴史や、目には見えない存在の気配。光と影、静寂と音、現実と幻想がゆるやかに重なり合い、鑑賞者をひとつの物語ではなく、それぞれの記憶へと誘います。

直島の「Ring of Fire」など日本での活動も重ねてきたアピチャッポンに、変化への観察から生まれる作品と、光や夢をめぐる思考、そして今回Tokyo Gendaiで提示する世界について伺いました。

Apichatpong Weerasethakul
《Rueangrith Suntisuk, Pornpan Arayaveerasid, Akritchalerm Kalayanamitr, and Koichi Shimizu A Flower of Forgetfulness》(2026)
Image courtesy of the Artist, ©︎Rueangrith Suntisuk
Apichatpong Weerasethakul
《Rueangrith Suntisuk, Pornpan Arayaveerasid, Akritchalerm Kalayanamitr, and Koichi Shimizu A Flower of Forgetfulness》(2026)
Image courtesy of the Artist, ©︎Rueangrith Suntisuk

映画、光、映像インスタレーション、写真など、さまざまな領域を横断しながら制作されているご自身の芸術実践について、初めて作品に触れる人に向けて、どのように説明しますか?

私は、自分の周囲で起きている変化に関心があります。特に、テクノロジーや生物学、そして世代を超えて起こる変化について。そして何よりも、自分自身の内側で起こる変化——記憶や老い、そして物事を見る視点の変化に興味があります。

そして私は、観察したいという強い欲求を持っています。

あなたの作品では、個人的な記憶や夢、幽霊、そして土地が持つ深い歴史など、目には見えない存在が、美しい光と影のレイヤーとして立ち現れます。覚醒と睡眠のあわい、あるいは現実とシュルレアリスムの境界のような、こうした「境界的な空間」にこれほど強く惹かれるのはなぜでしょうか?

夢と記憶は、個人的な映画のようなものです。それらは蒸気のように儚く、移ろいやすい。

捉えることができないからこそ、私はそこに惹かれます。それらを捉えようとしたり、現実の確かさを問い直したりするのではなく、その流れに身を委ねていくこと。それが、私を突き動かしているのだと思います。

Apichatpong Weerasethakul 《A Conversation with the Sun (Installation)》(2022)
Image courtesy of the Artist and Bangkok CityCity Gallery
Apichatpong Weerasethakul 《A Conversation with the Sun (Installation)》(2022)
Image courtesy of the Artist and Bangkok CityCity Gallery

『A Conversation with the Sun』や、2026年のパフォーマンス作品『A Flower of Forgetfulness』など、近年のプロジェクトでは、風に揺れる巨大な布に映像を投影するなど、光の儚さを捉える試みが非常に印象的です。こうした創作のプロセスにおいて、どのような瞬間や環境から最もインスピレーションを受け、こうしたイメージが心に浮かび上がってくるのでしょうか?

私は静かな場所を好みます。音に敏感なので、木々に囲まれたチェンマイで暮らしています。

でも、今おっしゃったパフォーマンスでは、音はかなり大きいですよね! おそらくそれらは、最後には静けさを求めていく、夢のカオスのようなものなのだと思います。

いずれにしても、アイデアの多くは、何も考えていないときにふと浮かんできます。それは多くの人に共通することだと思います。

2024年に直島で始動した「Ring of Fire」プロジェクトや、多摩美術大学でのワークショップなど、日本独自の土地や自然、そして若い世代と密接に関わる活動をされています。日本特有の自然環境や時間の感覚は、ご自身の表現にどのような創造的刺激や対話をもたらしていると感じますか?

外から日本を見る者として感じるのは、日本はとても「クッション」に包まれたような場所だということです。身体的には守られていて、精神的にもケアされている。だからこそ、物事の多くが理にかなっているように感じます。

一方で、その保護や周到に整えられた環境そのものが、圧倒的に感じられることもあります。私は、物事や時間がそれほど整えられていない、広がりのある自然に惹かれます。

日本には、そうした開かれた美しさが豊かに存在しています。また、日常生活の中に今も残っている信仰や儀式も好きです。それらは、私たちの想像力に、異なる層の存在を与えてくれます。

Apichatpong Weerasethakul 《Solarium》(2023)
Image courtesy of the Artist and Bangkok CityCity Gallery
Apichatpong Weerasethakul 《Solarium》(2023)
Image courtesy of the Artist and Bangkok CityCity Gallery

Tokyo Gendaiは、世界中から多様な観客やコレクターが集う場です。今回のフェアで作品を通して人々と接する際、どのようなメッセージや、既存の見方とは異なる視点を届けたいと考えていますか? また、日本のアートシーンのこれからについて、どのようにお考えですか?

私はただ、自分の記憶の断片を差し出しているのだと思います。自分が大切にしているもの——歴史的な遺物、夢、そして筆のストロークです。

多摩美術大学でのワークショップは、とても楽しいものでした。参加した学生たちを通して、日本の若いアーティストたちが持つ創造的なエネルギーを実感することができました。

これから、より多くの機関が、彼らが自由に作品を発表できる場を提供してくれることを願っています。彼らには、たくさんのことを伝えるものがあります。

豊かな伝統を持つこの場所から、これまでにない大胆な新しい声が立ち上がってくるのを、楽しみにしています。

ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiでの展示を楽しみにしています。

見えないものの気配を、アピチャッポン・ウィーラセタクンの作品とともに。

会期:
2026年9月11日 (金)〜13日 (日) *ヴェルニサージュは9月10日 (木) 

会場:
パシフィコ横浜

ブース:
BANGKOK CITYCITY GALLERY

チケット購入先:

©︎Chayaporn Maneesutham

APICHATPONG WEERASETHAKUL

(アピチャッポン・ウィーラセタクン)

1970年、タイ・バンコク生まれ。タイ北東部のコンケンで育つ。1994年より映画や短編映像の制作を始め、2000年に初の長編映画を完成。1998年以降、世界各地で展覧会やインスタレーションを発表している。非線形的な語りを特徴とする作品を通して、記憶、喪失、アイデンティティ、欲望、歴史などを探究し、国際的な映画作家・現代美術家として高い評価を得ている。

2021年、ティルダ・スウィントンを主演に、自身初のタイ国外撮影作品となった『メモリア』でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞。2010年には『ブンミおじさんの森』で同映画祭パルム・ドールを受賞した。『トロピカル・マラディ』(2004)は2004年カンヌ国際映画祭コンペティション部門審査員賞、『ブリスフリー・ユアーズ』(2002)は2002年同映画祭「ある視点」部門賞を受賞。

インスタレーション作品は、ミュンヘンのハウス・デア・クンスト、ニューヨークのニュー・ミュージアム、カッセルのドクメンタ、台北市立美術館、アムステルダムのEYEフィルム・ミュージアムなど、世界各地の主要な美術館・国際展で発表されている。近年の主な作品に、《SleepCinemaHotel》(2018)、《A Minor History》(2021、2022)、《A Conversation with the Sun (VR)》(2022)、《Solarium》(2023)、ハ・ヨンジュンとの共同プロジェクト《Ring of Fire》(2024–2027)、《Flower of Forgetfulness》(2026)などがある。

現在、次回長編映画『Jenjira’s Magnificent Dream』を制作中で、2027年の完成を予定している。

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