時間の流れを、目に見えるかたちに変えていくアーティスト、Dawn Ng。シンガポールを拠点に、絵画、写真、映像、彫刻、インスタレーションなどを横断しながら、色彩と光、そして刻々と姿を変える素材の美しさを捉えてきました。なかでも、顔料を重ねた氷の塊がゆっくりと溶け、崩れていくことで生まれる作品は、制作の瞬間そのものを作品へと変えていきます。
鮮やかな色彩と繊細な表情、その一瞬にしか存在しない美しさ。国際的に高い評価を受けるDawn Ngの作品を、ぜひ会場でご覧ください。
あなたの作品をまだご覧になったことのない方に向けて、制作活動や作品を導く考えについて教えてください。
私の制作は、根本的に「時間」について考えることから始まっています。私たちは時間をどのように経験し、どのように留めようとするのか。そして最終的には、私たちが知るすべてのものが、常に「生まれつつある」あるいは「消えつつある」状態にあるということについてです。
私は、絵画、写真、映像、彫刻、大規模なインスタレーションなど、さまざまな表現を横断して制作しています。その中でも、時間そのものを内包するような素材に惹かれています。ここ10年ほどは、特に「氷」が私にとって重要な素材となっています。
私は、顔料を何層にも重ねて大きな塊にしたものを凍らせ、それを一日かけて溶かしていきます。その崩壊の過程から、絵画や写真、映像が生まれます。つまり、最初は固体の彫刻作品だったものが、最終的にはひとつのイメージとなり、残滓となり、そして自らの記憶へと変化していくのです。
私の作品は、こうした緊張関係の中に存在しています。存在と不在、創造と破壊、永続と儚さ。
あなたの作品では、色彩や光、氷や紙といった変化する素材を通して、時間の経過や美しい瞬間が表現されています。制作の過程で、特にどのような瞬間や体験からインスピレーションを受けますか?
私は、移り変わりの瞬間に最も惹かれます。光が消えていく直前の時間、ある色が別の色へと変わり始める瞬間、あるいは固い氷の塊が溶け始める瞬間などです。
例えば氷を使った作品では、通常、ひとつの作品を構築し、凍らせるまでに1か月ほどかけます。それが、1日にも満たない時間で崩れ去ってしまう。
私は、その状況に内在する緊張感、そして美しさと喪失が、時間によってひとつに結びついているという事実に魅力を感じています。
《Into Air》では、儚い素材である氷を用いて、存在と消失のあいだにある空間を探求されています。《Perfect Stranger》や《Merry Go Round》のような作品では、大規模なインスタレーションによって、空間を体験することそのものを変化させています。素材を選び、空間を構成する際に、最も大切にしていることは何ですか?
長年制作を続ける中で、私にとって素材は、単にアイデアを表現するための手段以上のものになってきました。素材そのものが主体性を持ち、私自身を変化させたり、抵抗したり、問いかけたり、予想外の驚きをもたらしたりしてほしいと思っています。
特に氷には強い力があります。氷そのものが時計のようなものだからです。 冷凍庫から出した瞬間から、その素材はすでに別の状態へと向かって動き始めています。
顔料の塊をどのようにつくるか、また装置の動きをどのように組み立てて絵を形づくるかなど、絵画が生まれる最初の条件については、ほとんど細部に至るまで自分で設定することができます。しかし、作品が最終的にどのような美しさを見せるのか、そしてどのような結果にたどり着くのかは、溶けていく過程の状況と向き合い、それを調整していくことにかかっています。そこには、私自身が完全にはコントロールできない部分があります。
空間を扱うときには、作品を「見る」ことと、作品の中に「身体的に入り込む」ことの違いに興味があります。スケール、光、色、音、距離、そして身体の動きが、私たちが作品と出会う方法を形づくり、時間の感じ方そのものを変えていくのです。
あなたの作品には、個人的な体験を超えて、鑑賞者自身の記憶や感情を重ね合わせる余白があります。作品と鑑賞者との関係について、どのように考えていますか?
私の作品は、ひとつの決まったメッセージを伝えるというよりも、色彩や質感、形を通して、何かを感じるための条件をつくり出しているのだと思います。
Tokyo Gendaiには、日本そして世界各地からアートファンやコレクターが集まります。今回、会場であなたの作品に出会った方に、どのような体験や発見を持ち帰ってほしいですか?
アートフェアは、非常に刺激的な環境です。人々は、何百ものイメージや作品の間を、次々と移動しながら見ていきます。
だからこそ、私の作品に出会った人にとって、その瞬間だけは時間が立ち止まってほしい。その人が立ち止まる、ほんの一瞬。私は、その「間」を持ち帰ってもらえたらと思っています。
ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiでの展示を楽しみにしています。
一瞬だからこそ、心に残る。Dawn Ngの作品を、会場で。
会期:
2026年9月11日 (金)〜13日 (日) *ヴェルニサージュは9月10日 (木)
会場:
パシフィコ横浜
ブース:
Gana Art
チケット購入先:
Dawn Ng
Dawn Ngは、さまざまな素材やモチーフ、そして大規模なインスタレーションを横断して制作するマルチディシプリナリーなアーティストです。時間、記憶、ノスタルジア、そして時間性をテーマに作品を展開しています。
代表的かつ現在も継続して取り組んでいるシリーズ《Into Air》では、故郷シンガポールの熱帯気候において究極に儚い素材である「氷」を取り入れ、絵画、映像、写真作品、ライトボックス、パフォーマンスなどを通して、時間の移ろいやその繊細なニュアンスを表現しています。
風景や地質との視覚的・感情的なつながりを感じさせるNgの作品は、鮮やかな色彩、豊かな質感、細部への緻密な描写によるマークメイキングを通して、移ろいゆく時間の儚さを探求しています。
これまでに、アジア、オーストラリア、ヨーロッパのさまざまな国際的な美術館・文化機関に作品が収蔵され、また作品制作の依頼を受けています。





