日本のアート市場と、グローバルな視点から見たその可能性

Wednesday 9 September, 2026
Photo by David Owens
執筆:メラニー・ガーリス(フィナンシャル・タイムズ アートマーケット・コラムニスト)

日本のアート市場は、世界全体で見るとまだ小さい。調査会社アーツ・エコノミクス(Arts Economics)による最新の売上データでは、その規模は6億9200万ドルで、世界市場全体のわずか1.2%にとどまる。一方で、2024年に世界市場が12%縮小したのに対し、日本市場は2%成長した。国際的なギャラリーも、日本のアートシーン、とりわけ日本のアーティストへの関心を強めている。

この夏ロンドンでは、ザ・フォトグラファーズ・ギャラリー(The Photographers’ Gallery)で「Japanese Women Photographers: From 1950s to Now(日本の女性写真家たち:1950年代から現在まで)」展が開かれている。また今年前半には、同じくロンドンのヘイワード・ギャラリー(the Hayward Gallery)で塩田千春の個展が開催された。ニューヨークでは、大手ギャラリーのデイヴィッド・ツヴィルナーが最近、日本生まれの現代アーティスト10人と、日本の先駆的な作家5人を紹介する展覧会を開催した。この展覧会は、東京・森美術館の元アジャンクト・キュレーターであるマーティン・ゲルマンが企画したものだ。

この展示には、国際オークションでの価格が記録を更新し続けている西村有も含まれていた。5月には、西村ならではの叙情的な作品「Leaves carpet」(2017年)が、サザビーズ・ニューヨークで100万ドル近い価格で落札された。西村のオークション記録は2024年には13万2000ドルであり、2023年にはそもそも出品作品がなかった。

海外ギャラリーは、明らかに次の段階を見据えている。近年、東京には、フランス、ルクセンブルク、スイスにも拠点を置くセイソン&ベネティエールがアジア初のスペースを開設したほか、国際的な大手であるペース・ギャラリーが2024年、麻布台ヒルズに本格進出した。

今年に入り、ペースは世界全体で取り扱いアーティストとスタッフを大幅に削減すると発表した。しかし、CEOのマーク・グリムシャーによれば、東京については変更の予定はまったくないという。「日本は私たちにとって未来のモデルです」と彼は語る。日本は「信じられないほど使い勝手のいい国になりました。何もかもがきちんと機能している。訪問者としても、ビジネスの拠点としても、そこで活動するのは楽しく、やりやすい」と話す。

Lauren Quin《Gampr》 (2026) ©Lauren Quin, courtesy Pace Gallery

現地のコレクターについて、グリムシャーは「冷静で、思慮深く、投機的ではなく、若く、作品への思い入れが強い」と評する。ペース東京での展開は「驚くほど好調」で、しかも作品価格は国際水準を維持しているという。同ギャラリーが東京で紹介する、流麗な筆致で知られる英国人作家ナイジェル・クックの作品は、10万ドルから100万ドルの価格帯となる。

ペースは今年のTokyo Gendaiに再出展するギャラリーの一つである。同フェアの共同創設者マグナス・レンフリューによれば、出展ギャラリーのうち、海外ギャラリーが半数をやや上回るという。VIP来場者の約20%は日本国外から訪れているという。

海外コレクターにとって円安が日本の魅力を押し上げているうえ、同アートフェアが保税展示場として扱われているため、海外コレクターは10%の消費税を回避できる利点もあると、同氏は説明する(ペースも同様の優遇を受けていることを、グリムシャー氏が認めている)。とはいえ、日本市場の魅力は「世界的な潮流に逆行して成長している国であること、その成長性にこそある」とレンフリューは語る。

今年再び出展するギャラリーの一つに、シンガポール、ニューヨーク、ロンドンに拠点を持つサンドラム・タゴール・ギャラリーがある。世界各地の作家を組み合わせた同ギャラリーのブースには、日本の千住博の作品も出品される予定だ。千住は滝を主題にした大作で知られ、羽田空港や高野山金剛峯寺にも作品を残している。ファウンダーのサンドラム・タゴールは、千住の作品について「購入意欲の高いコレクターを常にブースに引き寄せてくれる」と語り、そこから他の作家との出会いにもつながると期待する。

Hiroshi Senju《Waterfall》 (2009) ©Hiroshi Senju. Courtesy of Sundaram Tagore Gallery

文化庁の林保太文化政策調査分析官は、「日本人アーティストへの国際的な関心の高まり」を指摘する。特に女性作家への関心が強まっているという。またTokyo Gendaiの高根枝里フェアディレクターも、写真を含む紙作品への需要が高まっていると見る。今年の同フェアでは、「Miki ‘Trunk’」と呼ばれる新セクションが設けられ、11のギャラリーブースがこれに特化する。

女性作家と紙作品。この二つが重なれば、世界から注目を集めやすい。高根フェアディレクターがその例として挙げるのが、群馬を拠点とする写真家・片山真理だ。片山は、森現代芸術財団が創設した第1回森アートアワードのグランプリに選ばれた。近作「tree of life」シリーズは、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館の依頼で制作され、同館で展示されている。10月末には森美術館で個展が開幕する予定で、オークション市場での注目も高まりそうだ。

Tokyo Gendai
会期:
2026年9月11日 (金)〜13日 (日) *
ヴェルニサージュは9月10日 (木) 

会場:
パシフィコ横浜

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