直感と好奇心から生まれるコレクション。Monique Leong インタビュー

Wednesday 9 September, 2026

Tokyo Gendaiが、国内外で活躍するコレクターやアート関係者に、作品との出会いやコレクションへの思いを伺う「Collector Interview」。

今回登場するのは、ロンドンを拠点に、現代アート、カルチャー、テクノロジーの交差領域で活動するコレクター、モニーク・レオンさんです。マカオに生まれ、イギリスと香港で育った彼女は、家族とともにコレクションを築きながら、パリのパレ・ド・トーキョーのインターナショナル・ボードやDelfina Foundationのアジア太平洋地域パトロンなど、さまざまな立場から現代アートの世界に関わっています。

若手アーティストの成長を見つめること、直感とリサーチのあいだで作品と向き合うこと。そして、一つひとつの作品との出会いを、家族との経験や学び、時には友情へとつなげていくこと。モニークさんのコレクションには、明確なテーマや理論だけでは捉えきれない、作品との出会いから生まれる時間や記憶が刻まれています。

今年、Tokyo Gendai「Hana Artist Award」の審査員を務めるモニーク・レオンさん。何が彼女の目を留め、心を動かすのか。コレクターとして作品と向き合う姿勢から、若手アーティストへの期待、そしていま彼女が感じている日本のアートシーンの可能性まで、お話を伺いました。

Oliver Beer《Resonance Painting (Devils and Angels)》(2024)
Leong Family Collection
Oliver Beer《Resonance Painting (Devils and Angels)》(2024)
Leong Family Collection

マカオで生まれ、イギリスと香港で育ち、ペンシルベニア大学で学ばれたそうですね。お母さまと一緒にコレクションを築いてこられたと伺っています。普段、ご家族で作品を選ばれるのでしょうか? また、ご自身のコレクションに対する考え方や、コレクションならではの特徴についても教えてください。

コレクションは、いつも母と一緒につくってきました。どうしても意見が一致しないときには、家族で投票することもあります。ただ、たいていの場合、そこまでたどり着く頃には、私たち自身が本当に欲しいものをすでに心の中で分かっているんです。ですから、その投票は、実際には最終確認のようなものですね。

私たちは、明確なテーマや理論に基づいてコレクションを構築しているわけではありません。私たちのコレクションを私たちらしいものにしているのは、これまで一緒に歩んできたアートとの旅そのものが反映されていることだと思います。それぞれの作品には、私たちがその作品と出会った瞬間の何かが刻まれています。

作品の中には、これまでのコレクションを通して学んできたことを思い出させてくれるものもあります。そうした経験や学びは、作品そのものと同じくらい価値のあるものだと思っています。そうしたものは、どんな収集の戦略を立てても、意図的につくり出せるものではありません。

Alexis Ralaivao《I wish I could write poems》(2022)
/ Tracey Emin, The Nightmare, 2023.
Leong Family Collection
Alexis Ralaivao《I wish I could write poems》(2022)
/ Tracey Emin, The Nightmare, 2023.
Leong Family Collection

コレクションには、若手・新進のアーティストの作品も多く含まれています。若い世代のアーティストの作品を収集することに、どのような魅力を感じていますか?

ひとりのアーティストの実践が、時間とともに発展していく過程を見られることには、本当に大きな魅力があります。振り返ったときに、そのアーティストがどれほど遠くまで歩んできたのかを見られるのも興味深いですね。

ロンドンを拠点としていることも大きいと思います。できる限り、大学の卒業展にも足を運ぶようにしています。卒業展には、後の展覧会では失われてしまうこともある、ある種の率直さがありますし、そのアーティストがこれからどこへ向かうのかを知る手がかりにもなります。新進アーティストを紹介するアートフェアにも、同じようなエネルギーを感じます。発見できるものが多く、思いがけない出会いもあります。

今の若いアーティストたちは、これまでのどの世代よりも多くのものを表現の糧にできると思います。より多くのツールがあり、より多くの情報やアクセスがあり、そして、私たちが追いつけないほど速いスピードで変化する世界について、語るべきこともたくさんある。それが作品の中にさまざまな形で現れていることに、私は面白さを感じています。

もちろん、課題もあります。新進アーティストの作品には、既存の表現の影響が強く感じられるものも少なくありません。でも、本当に独自性のある作品に出会ったときには、それがすぐに分かるものです。

Keita Morimoto《Digital Whispers》(2023)
Leong Family Collection
Keita Morimoto《Digital Whispers》(2023)
Leong Family Collection

作品を購入する際、最初に感じた直感や感情的な反応をより重視しますか? それとも、時間をかけて考えたうえで決断することが多いでしょうか?

両方ですね。そして、そのふたつは互いに作用していると思います。何かが自分の足を止めるか、そうでなければ、そのまま次へ進みます。

作品を購入する前には、そのアーティストの展覧会歴をできるだけ詳しく見ます。初期作品から、どのように制作が変化してきたのか、そしてなぜ変化したのかも見ていきます。今どこにいるのかだけではなく、これからどこへ向かう可能性があるのかを、ある程度感じ取りたいのです。

ただ、直感だけでも、リサーチだけでも、判断を誤ることがあります。家族でひとつの作品について長い時間をかけて「ああでもない、こうでもない」と話し続け、最終的に、誰もその作品のために強く主張しなかったのなら、それ自体が答えなのだと気づいたこともあります。

反対に、間違った理由で急いで購入すると、作品としては評価できても、本当の意味で愛することのできない作品が残ってしまうことも、身をもって学びました。どちらも、コレクションを続けていくうえで大切な教訓になっています。

現在、特に注目している、あるいはその活動を追い続けているアーティストはいますか? その理由もぜひ教えてください。

Trevor Paglenです。彼が取り組んでいることに、アート界はまだ十分に追いついていないのではないかと思っています。

彼は、まだ多くの人が向き合う準備のできていない問いを投げかけます。私たちが「重要なことなのだ」と感じているからこそ、その問題が途方もなく大きく思えるような問いです。そして彼は、そうした問いを知的に理解させるだけではなく、身体的に、感情的に「感じさせる」方法を見つけ出します。

パラッツォ・ディエドで発表された近作《Voyager》(2026)は、ここ数年、現代美術を通して体験したなかでも、とりわけ強く心を動かされた作品のひとつでした。

その催眠を用いた作品については、言葉で説明しようとすると、かえってその体験を平板なものにしてしまうように思います。ただ、ひとつ言えるのは、実際に体験した人たちが、それぞれ異なるかたちで、そしてそれぞれ自身に固有のかたちで、何かが変わった状態でそこを後にしていたということです。

これは、アートにとってますます難しくなっていることだと思います。しかも彼は、それを鑑賞者自身の心を使って実現している。テクノロジーが体験そのものを圧倒するのではなく、あくまでその体験を支える役割を果たしている。そのことについて、私は今も考え続けています。

Nabuqi《Field》
 Leong Family Collection
Nabuqi《Field》
Leong Family Collection

コレクションの中で、特に思い入れのある作品はありますか? その作品にまつわるエピソードも教えてください。

Cary Kwokの《Everytime We Say Goodbye》(2022)は、おそらく私が最もよく思い返す作品です。2023年のArt Basel Hong Kongで出会いました。私たち家族には、アートフェアの最終日に一緒に会場を最後に一周するという習慣があります。気負わず、目的も決めず、ただ作品を見るための時間です。

CaryはHerald Stから一連の作品を出品していて、私はそのすべてに惹かれました。ギャラリーに何かを伝えるよりも前に、私たち3人はすでに同じ作品を選んでいたんです。そして、実際にその作品だけがまだ購入可能だったことが分かりました。

この作品は、Caryのより知名度の高いコレクターたちが好んで選ぶタイプの作品ではないと思います。Caryはユーモアのある人で、作品の中に「イースターエッグ」のような小さな仕掛けを忍ばせています。口紅の跡に隠されたサイン、ボタンの上にひっそりと置かれたもの、歯磨き粉やワインボトル、煙草のラベルに見立てたもの、あるいはテントウムシに小さなハートを刻印していたり。

この作品は、それらに比べると、もっと静かなものでした。でも、言葉にするより先に、私はその作品の中に何かを感じ取っていたのだと思います。そして、時にはひとつの作品が、実際にその人と出会うよりずっと前に、その人を紹介してくれることがあるのだと気づかせてくれました。

それ以来、Caryについて知っていったこと——その繊細さや温かさ——を、私は不思議なことに、すでにあの絵の中に感じ取っていたのです。この作品は、私が心から感謝している友情の始まりを記す、大切な作品になりました。

パリのパレ・ド・トーキョーのインターナショナル・ボードで最年少のメンバーを務めるなど、現代アートの世界でさまざまな活動に携わっています。こうした経験は、作品を収集する姿勢や、新進アーティストを支援することへの思いにどのような影響を与えていますか?

長年にわたって尊敬してきたコレクターの方々に囲まれて活動できることを、とても幸運に思っています。そこから得られたのは、ほかでは得ることのできない経験です。何十年にもわたって真剣にコレクションを築いてきた人たちが、実際にどのように考え、作品やアーティストと向き合っているのかを知る機会です。

特に印象的なのは、彼らの先見性とエネルギーです。30年前に支援したアーティストや、当時は静かな展覧会に思えたものが、今振り返ると重要な瞬間だったという話をしてくれます。それでいて、新しい展覧会を見に行き、思いがけないものを発見したいという意欲は、まったく衰えていません。

アートが、彼らを本当の意味で若く保ち続けているのだと思います。それは私にとって、とても大きな刺激になっています。

Antony Gormley《Another Time》
Leong Family Collection
Antony Gormley《Another Time》
Leong Family Collection

今年、Tokyo Gendaiの「Hana Artist Award」の審査員を務められます。今回この役割を担うことについて、どのようにお考えですか? また、現在特に注目している日本の新進アーティストがいれば、教えてください。

大変光栄に思っています。このような機会と信頼を寄せてくださったTokyo Gendaiに感謝しています。審査員という立場は、アーティストのキャリアにとって重要なタイミングで、大きな意味を持つものだと思います。だからこそ、丁寧さとオープンな姿勢を持って、このプロセスに向き合いたいと考えています。

日本を訪れるのは久しぶりですし、これまで日本のアートシーンを、自分が望んでいたほど深く見る機会がありませんでした。今回は大きな期待と、先入観を持たないオープンな気持ちで日本を訪れます。ずっと実現できていなかった訪問が、ようやく叶うという感覚です。

日本のアーティストで、これまで注目してきたのは、今井麗、松川朋奈、Morimoto Keitaです。

Tokyo Gendaiには、世界各地から多様な現代アートが集まり、異なる視点やエネルギーが交差する場が生まれます。日本のアートシーン、そしてこのフェアを訪れる観客に対して、どのような期待や思いを持っていますか?

私は以前から、日本のアーティストには他とは異なる、独自のものがあると感じてきました。長年にわたり、作品を見ていると、そのアーティストの展覧会歴がほぼ日本国内に限られていることに気づくことがありました。それは、ぜひ変えていくべきバランスだと感じていました。そこには明らかに、もっと広い世界に知られるべきものがあるからです。

今回ここに来る理由のひとつは、それが何なのかを、より直接的に理解したいと思っているからです。文化的な影響は、時にごく subtle に、また時にははっきりと、アーティストの実践を形づくります。実際、日本でのレジデンスを経験した後、作品に大きな変化が生まれたアーティストをこれまで何人も見てきました。

Tokyo Gendaiは、そうした交流が双方向に生まれるのにふさわしい場所だと思います。日本のアーティストが国際的な観客へと作品を届ける一方で、海外から訪れるコレクターが、純粋な好奇心を持って日本のアートに出会うことができる。

私は、ぜひ後者のひとりになりたいと思っています。

出会いが、コレクションを育てる。
Tokyo Gendai 2026

会期:
2026年9月11日 (金)〜13日 (日) *ヴェルニサージュは9月10日 (木) 

会場:
パシフィコ横浜

チケット購入先:

モニーク・レオンは、ロンドンを拠点に、現代アート、カルチャー、テクノロジーの交差領域で活動するアートプロフェッショナル。マカオ出身。ペンシルベニア大学で哲学・政治学・経済学を学び、アート・ヒストリーと消費者心理学を副専攻として修める。

現在は、Meta Media Group傘下でArtReviewとNownessによるアートとテクノロジーのイニシアチブ「MC2」にて、パートナーシップおよび事業開発を統括。パリのパレ・ド・トーキョーのインターナショナル・ボードメンバーを務めるほか、Delfina Foundationのアジア太平洋地域パトロンとしても活動している。家族とともにアートコレクションを築いている。

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