言葉、歴史、そして抽象。Adam Pendletonが拓く絵画の可能性

Monday 7 September, 2026

言葉、イメージ、歴史、そして抽象。Adam Pendletonの作品は、一見するとシンプルで静かな佇まいを見せながら、その内側には、さまざまな声や記憶、時間が幾層にも重なっています。シルクスクリーンやスプレーペイント、Xeroxによるイメージなど、異なる手法を組み合わせることで生まれる独特のリズム。近づいて見るほど、最初には気づかなかった言葉や形、イメージが浮かび上がり、見る人自身の記憶や想像力を呼び起こします。

2008年から展開する「Black Dada」では、「Black」と「Dada」という歴史的・文化的に大きな意味を持つふたつの言葉をあえて並置し、そのあいだにある余白から新たな可能性を探ってきました。過去をそのまま再現するのではなく、歴史の断片を現在へと引き寄せ、異なる文脈のなかで新しい意味を生み出していく。その実践は、絵画とは何か、そして私たちは何を「見る」のかという問いにもつながっています。

彼の作品は私たちに何を見せ、どんな発見をもたらしてくれるのでしょうか。抽象と歴史、言葉とイメージをめぐる思考、そして今回Tokyo Gendaiで発表する作品について、本人に話を聞きました。

Adam Pendleton 《Untitled (Days)》(2026)
©Adam Pendleton. Courtesy of Taka Ishii Gallery
Photo: Elisabeth Bernstein Photography

まだ作品をご覧になったことのない方に向けて、ご自身の制作活動について教えていただけますか?

私は、アイデアがこの世界にどのように存在するのか、ということに関心を持つ画家です。そのため、私の作品にはドローイングや映像、さらにはより彫刻的な形態の作品も含まれています。

私が興味を持っているのは、抽象というものが何を可能にするのかということです。ひとつの絵画の中に、ジェスチャーや言葉、歴史、経験といったものを、それらをひとつの意味へと収束させることなく、どのように共存させられるのか。

私を動かしているのは、詩的な出発点です。私の作品は、スプレーを吹きつける、線を描く、あるいは言葉を書くといった、とても直接的な行為から始まることが多いです。そこには常に、手と頭のあいだ、即時的なものと、じっくりと思考されたものとのあいだを行き来する動きがあります。

最終的に私が関心を持っているのは、動き続ける絵画をつくることです。見るという行為の中で、絶えず自らを組み替え続けるような絵画です。

シルクスクリーンによる密度の高いテキストやスプレーペイント、Xeroxによる質感などを幾層にも重ねることで、独特の視覚的なリズムを生み出しています。こうしたレイヤーを重ねる制作のプロセスにおいて、最も大切にしていること、意識していることは何でしょうか?

私は、単純に「レイヤーを重ねること」そのものよりも、それぞれの要素の「関係」について考えています。ひとつのジェスチャーや断片、形が、別のものと出会ったときに何が起こるのか、ということです。

制作のプロセスそのものは見える状態にしておきたい。でも、絵画がただ「そこで起きたことすべての記録」になってしまうのは避けたいと思っています。

それぞれの要素が独立した存在としてありながら、互いに作用することで、単独では生み出すことのできなかった何かが立ち上がってくる。私は、そうした状態を探しています。

そこには、コントロールと偶然のあいだにある重要な緊張感もあります。私は構造や手順を設定しますが、絵画にはそこからはみ出してほしいと思っています。

私がしばしば探しているのは、自分でも完全には予測できなかった何かが起こる、その瞬間なのです。

Adam Pendleton 《Untitled (Composition)》(2025-2026)
©Adam Pendleton. Courtesy of Taka Ishii Gallery
Photo: Elisabeth Bernstein Photography

「Black Dada」という枠組みは、アヴァンギャルドの歴史とブラック・ラディカリズムを結びつける概念的な架け橋となっています。歴史の断片を「再構築」し、現代美術へとつなげていくことには、あなたにとってどのような意味がありますか?

Black Dadaは、2008年から発展させてきた制作の方法論です。「Black」と「Dada」という2つの言葉を組み合わせていますが、どちらも歴史的、政治的、文化的に非常に大きな意味を背負っています。ただ、それらを調和させたり、意味をひとつに固定したりすることを目的としているわけではありません。私にとって重要なのは、その2つの言葉のあいだにある空間です。

Black Dadaは、私にルールを破ることを許してくれます。「絵画はこうやってつくるべきだ」とか、「抽象や言語にはここまでしかできない」といったことを誰かに決められたくない。あるいは、「黒人アーティストはこうするべきだ、こうするべきではない」とか、「Blacknessとはこういうものだ」と規定されたくもない。

そういう意味で、Black Dadaは非常に明確でありながら、同時に無限の可能性を生み出す余地を持ったものなのです。

Adam Pendleton 《Black Dada (K)》(2026)
©Adam Pendleton. Courtesy of Taka Ishii Gallery
Photo: Elisabeth Bernstein Photography

制作のプロセスにおいて、最も大きなインスピレーションを得るのはどのような瞬間ですか?

私は、おそらく「インスピレーション」そのものよりも、「発見」に関心があります。私を動かしているのは好奇心、特に視覚的な好奇心です。

最も重要な瞬間は、作品が自分の予想していなかったことをしてくれたときに訪れることが多いです。ひとつのジェスチャーや素材、あるいは異なるものの組み合わせが、突然、それまで思いもしなかった可能性を開いてくれる瞬間です。

それは絵を描いたりドローイングをしたりしている最中に起こることもあれば、作品の要素を動かしているとき、あるいは何週間も取り組んできた作品を眺めているときに起こることもあります。

突然、それまでずっとそこにあったのに、自分がまだ見ていなかったものに気づくんです。だからこそ、私は制作のプロセスをとても大切にしています。作品を始めるときに、最終的にどこへ向かうのかを完全に知っていたくはない。つくるというプロセスそのものから、新しい知識が生まれてほしい。自分の意図だけでは辿り着けなかった場所へ、制作を通して辿り着きたいのです。 

Adam Pendleton 《Untitled (Days)》(2026)
©Adam Pendleton. Courtesy of Taka Ishii Gallery
Photo: Elisabeth Bernstein Photography

Tokyo Gendaiを訪れる日本や世界の観客に、作品を通してどのようなことを感じてほしいですか?

作品を見た人に「こう感じてほしい」と、あらかじめ決めることはできるだけ避けています。ひとたび絵画が世界に出ていけば、鑑賞者はそれぞれの経験や知識、意識、そして自分自身の意図を作品に持ち込みます。その出会いによって、私がスタジオでは完成させることのできない何かが、初めて完成するのだと思います。

作品が異なる文脈の中を移動することで、何が起こるのかということにも興味があります。東京で見た絵画は、同じ作品であっても、ニューヨークやアムステルダム、あるいは別の場所で見たときとは異なる連想を生み出すかもしれません。そうした不安定さこそが、作品を生きたものとして保ち続けるのだと思います。

私が望んでいることは、とてもシンプルです。誰かが作品と時間を過ごしてくれること。そして、最初に抱いた印象が変わるほど、じっくりと作品を見てもらえたらと思います。

ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiでの展示を楽しみにしています。

見るたびに、まだ見えていなかったものが現れる。Adam Pendletonの作品を、ぜひ会場で。

会期:
2026年9月11日 (金)〜13日 (日) *ヴェルニサージュは9月10日 (木) 

会場:
パシフィコ横浜

ブース:
Taka Ishii Gallery

チケット購入先:

Courtesy of Taka Ishii Gallery
Photo: Anna Pla-Narbona

Adam Pendleton
(1984年生まれ)

アダム・ペンドルトンは、現代美術を代表するアーティストのひとりである。高い評価を受ける画家として、制作プロセス、言語、フォルムへの継続的な探究を通じて、絵画というメディアの境界を押し広げている。身振り、断片、フォルムを凝縮して重ね合わせた彼の作品には、コンセプチュアル・アートやミニマル・アートを想起させる精緻さと、自由で表現主義的な実験精神が共存している。2008年、ペンドルトンは、現在広く知られる「ブラック・ダダ(Black Dada)」と呼ばれる制作手法の礎を築き始めた。これは、ブラックネス(黒人性)、抽象、そして歴史的なアヴァンギャルドの関係性を探究する批評的な枠組みである。

現在、ペンドルトンの個展がノイスのランゲン・ファウンデーション(Langen Foundation)およびワシントンD.C.のハーシュホーン博物館・彫刻の庭(Hirshhorn Museum and Sculpture Garden)で開催されている。2026年10月9日には、アムステルダム市立美術館(Stedelijk Museum Amsterdam)にて大規模な個展が開幕する。近年の個展には、ウィーンのmumok―ルートヴィヒ財団近代美術館(2023–2024年)、ミズーリ州セントルイスのミルドレッド・レーン・ケンパー美術館(2023–2024年)、モントリオール美術館(2022年)、ニューヨーク近代美術館(2021–2022年)などがある。ペンドルトンの作品は、世界各地の数多くの公的コレクションに収蔵されている。

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