台湾の映像アート、その新たな物語を発見する Project Fulfill Art Space インタビュー

Thursday 10 September, 2026

台湾・台北を拠点に、現代アートの新たな可能性を探り続けるProject Fulfill Art Space。作品そのものだけでなく、そこから生まれる体験や、アーティストと鑑賞者の間に立ち上がる豊かな対話を大切にしてきました。

今回のTokyo Gendaiでは、台湾の2つのギャラリー、Double Square GalleryとChi-Wen Galleryとともに、いま注目を集めるビデオアートを紹介します。なかでもZHANG XU Zhanの作品は、ユーモアや想像力、手仕事を通して、環境や文化、社会への問いを鮮やかに浮かび上がらせます。本インタビューでは、台湾の現代アートが持つ自由な発想と、世界へと開かれた表現の広がり、その魅力についてProject Fulfill Art Spaceに話を聞きました。

“LED” Yuko MOHRI Solo Exhibition , Project Fulfill Art Space, Taipei (2025)
Photo by @choccat.cc
“LED” Yuko MOHRI Solo Exhibition , Project Fulfill Art Space, Taipei (2025)
Photo by @choccat.cc

Project Fulfill Art Spaceのこれまでの歩みと、現在もギャラリーの活動を導いている理念について教えてください。

Project Fulfill Art Spaceは、現代アートの交流のためのプラットフォームとして設立されました。開設以来、作品、空間、そして鑑賞者の関係性に丁寧に向き合う展覧会を発表することを大切にしてきました。

「Project Fulfill」の名前にある「就在(Jui Zai)」は、「まさにここに、今この瞬間に」という意味を持ちます。これは、それぞれの展覧会が、その時代と場所が持つ固有の条件から生まれるべきだという、私たちの考えを表しています。

ギャラリーを単なる中立的な展示会場として捉えるのではなく、アーティストがその空間の特性と向き合い、展覧会そのものを、その場所でしか生まれない体験へと変えていくことを大切にしています。そうすることで、一つひとつのプロジェクトがその環境と切り離せないものとなり、鑑賞者が「今、この場所」ならではの文脈の中で作品と出会うことができると考えています。

これまでProject Fulfill Art Spaceでは、絵画、彫刻、インスタレーション、映像、サウンドなど、幅広いメディアを扱い、新進気鋭のアーティストから確立された作家まで、多様なアーティストと協働してきました。

また、国際的な交流のためのプラットフォームとして、アジア太平洋地域をはじめ、世界各地のアーティストとのコラボレーションにも取り組んできました。現在も、現代アートの表現の可能性を広げる活動を支援するとともに、台湾と国際的なアートコミュニティとの対話を育むことを大切にしています。

“Along the Way. Unknowing” 
Chen Ching-Ming Solo Exhibition , Project Fulfill Art Space, Taipei (2025) 
Photo by @choccat.cc
“Along the Way. Unknowing”
Chen Ching-Ming Solo Exhibition , Project Fulfill Art Space, Taipei (2025)
Photo by @choccat.cc

多くの所属作家が、リサーチを基盤としたコンセプチュアルな作品を制作されています。どのようなアーティストの実践に関心を持ち、紹介されているのでしょうか。また、その理由を教えてください。

私たちは、特定のメディアや制作手法そのものに焦点を当てるのではなく、継続的な探究と実験を通して、独自の芸術言語を築いているアーティストに関心を持っています。インスタレーション、映像、彫刻、絵画、サウンドなど、どのような媒体を用いていても、私たちが紹介したいと考える作家には、作品が置かれる具体的な空間や文化的背景、そしてそこで作品がどのように体験されるのかに対する、鋭い感性があります。

私たちにとって、コンセプチュアルな深さは、それ自体が目的なのではありません。作品とその環境、そして鑑賞者との間に、意味のある出会いを生み出すための手段だと考えています。

また、現代アートのプラットフォームとして、より広い文化的な対話につながる表現を紹介することも大切にしています。台湾と国際的なアートシーンの双方に響く作品を紹介することで、台湾の現代美術と世界のさまざまな視点をつなぎ、新たな対話が生まれることを願っています。

貴ギャラリーは、空間そのものを変容させるような展覧会で知られています。今回のTokyo Gendaiでは、ブースの展示をどのように構成されたのでしょうか?

今年、Project Fulfill Art Spaceは、台湾の2つのギャラリー、Double Square GalleryとChi-Wen Galleryとともに参加します。今回は、それぞれのプログラムを独立して紹介するのではなく、「台湾のビデオアートの多様性を国際的な観客に紹介する」という共通の目的のもと、3ギャラリーで協働することを選びました。

各ギャラリーから、ビデオアートにおけるそれぞれ異なる視点を示すアーティストを1名ずつ紹介しています。これらの作品を一つのブースに集めることで、単に個々の作品を紹介する場にとどまらず、台湾のビデオアートが持つ多様な表現言語や物語に触れ、その広がりを感じていただける場にしたいと考えています。

“Mr.Hsieh” Hsieh Mu-Chi Solo Exhibition , Project Fulfill Art Space, Taipei (2025) 
Photo by @choccat.cc
“Mr.Hsieh” Hsieh Mu-Chi Solo Exhibition , Project Fulfill Art Space, Taipei (2025)
Photo by @choccat.cc

今年のブースで、特に来場者の皆さまに紹介したいアーティストや作品について教えてください。

今年は、ZHANG XU Zhan(チャン・シュ・ジャン)による《Termite Feeding Show》と《AT5 – Animal Story Series》の2作品を紹介します。いずれも、作家独自の視覚言語を知るうえで、とても興味深い作品です。

《Termite Feeding Show》は、実写パフォーマンスとストップモーション・アニメーションを組み合わせた、ZHANG XU Zhanにとって初めての作品です。環境の変化によってシロアリが食性を変え、最終的には電線まで食べるようになり、大規模な停電を引き起こしたというニュースに着想を得ています。作家はこの出来事を、ある種の不条理なエコロジーの寓話として捉え直しました。

作品の中で、シロアリの「新たな食欲」は、自然への儀式的な捧げ物であると同時に、人間に対する象徴的な報復として描かれます。手作業で制作された紙の彫刻、緻密なストップモーション・アニメーション、そして実写パフォーマンスを組み合わせることで、神話と現実の境界を曖昧にしながら、シロアリの変化を引き起こした環境そのものが、やがて人間社会の未来を予兆しているのではないかと問いかけます。遊び心のある視覚表現の奥には、環境危機や生存、そして人間と自然との関係がもたらす結果についての、鋭くも詩的な考察が込められています。

一方、《AT5 – Animal Story Series》では、異なる地域の文化が、共通する物語の伝統を通じてどのようにつながり得るのかを探っています。タイトルの「AT5」は、昔話を繰り返し現れる物語のパターンによって分類するAarne–Thompson(AT)分類に由来します。

インドネシア、日本、台湾などアジア各地に伝わる昔話に着想を得て、作家は誰もがどこかで見聞きしたことのある動物の物語を、台湾の伝統的な民俗芸能である藝陣(イージェン)の視覚表現や、ストップモーション・アニメーション、手作りの衣装を通して再構成しています。異なる文化的背景から生まれながらも似た構造を持つ物語を織り合わせることで、地域を越えて文化的な物語が伝わり、受け継がれ、変化していく過程を見つめています。

この2作品を通して、ZHANG XU Zhanが、地域に根ざした素材や伝統を現代的な映像表現へと変換し、文化を越えて響く作品へと昇華させる力を感じていただけると思います。同時に、詩的な物語性を通して、私たちの社会が抱えるさまざまな問題を見つめ直す、作家の独自の視点も伝わるのではないでしょうか。

ブースで作品をご覧いただいた後、来場者の皆さまにどのような体験を持ち帰っていただきたいですか?

参加するそれぞれのアーティストが持つ独自の視点に触れていただくと同時に、台湾のビデオアートが持つ豊かな創造性と、その現在進行形の活力を感じていただければと思っています。

今回の協働展示を通して、台湾の映像表現が、多様なアプローチや物語の語り方によって、今も進化を続けていることをお伝えしたいと考えています。たとえば、ZHANG XU Zhanの《Termite Feeding Show》のような作品を通して、想像力やユーモア、そして詩的なメタファーを介し、身近な社会現象を新たな視点から見つめるきっかけを持っていただければ嬉しく思います。

そして、ブースを後にした後も、台湾のアーティストたちが国際的な現代アートのシーンにもたらしている創造性と表現の深さが、心に残ることを願っています。

ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiでの展示を楽しみにしています。

台湾の映像アート 画面の向こうに広がる物語を会場で。

会期:
2026年9月11日 (金)〜13日 (日) *ヴェルニサージュは9月10日 (木) 

会場:
パシフィコ横浜

ブース:
Project Fulfill Art Space

チケット購入先:

Project Fulfill Art Space

Project Fulfill Art Spaceは、現代アートの交流を生み出すプラットフォームとして、2008年に台北で設立された。

ギャラリーの活動の核にあるのは、「時間」と「空間」という、その場所固有の条件である。展覧会を構想する際には、サイト・スペシフィックな考え方を重視し、アーティストには、ギャラリーの空間、その特徴や条件を作品に取り入れながら、展覧会を環境との関係性のなかで捉えることを促している。これは、Project Fulfillのもう一つの名称である「就在(Jui Zai)」が意味する「まさにここ、まさに今(right here, right now)」という考え方にも通じている。

それぞれの展覧会で生まれる感覚や体験は、作品とその周囲の環境との関わりによって生まれる、唯一無二の創造的な体験となる。それは、従来のギャラリー体験を超えたものでもある。また、作品は単純に別の場所へ移動できるものではなく、その時、その場所にしか存在し得ない空間と時間の一部として、周囲の環境と深く結びついていく。

Project Fulfill Art Spaceは、台湾の現代アートシーンにおいて、新進気鋭のアーティストから確立された作家まで幅広く紹介してきた。絵画、彫刻、サイト・スペシフィックなインスタレーション、映像、サウンドアートなど、多様なメディアを扱いながら、現代アートの交流拠点として、アジア太平洋地域を中心に、日本、香港、シンガポール、韓国、中国、インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピン、インド、オーストラリア、トルコなど、世界各地のアーティストとの協働にも取り組んでいる。

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