過去と現在が交差する、その一枚の奥へ。 マックス・ゴメス・カンレが描く絵画の時間

Wednesday 5 August, 2026

「オリジナリティ」という概念を、ずいぶん前に手放したというアーティストがいる。アルゼンチン出身のマックス・ゴメス・カンレは、ルネサンスやポンペイの壁画、ラテンアメリカの幾何学的抽象絵画、さらにはビデオゲームや絵文字まで、時代も文化も異なるイメージを自在に重ね合わせながら、新たな絵画の風景を描き出している。

彼の作品の真骨頂は、幾重にも積み重ねられた「本物の絵画」が放つ、圧倒的な存在感にある。石や金箔を取り込み、時間をかけて磨き上げられた画面は、写真では決して伝わらない光や質感を宿し、見る者を静かに引き込んでいく。異なる時代やイメージが一枚の画面のなかで響き合うその光景は、実際に作品と向き合ってこそ体感できるものだ。本インタビューでは、「オリジナリティ」を手放した理由から、時間を作品に宿す制作プロセス、日本で作品を発表する思いまで、その創作の源泉を語ってもらった。

Max Gomez Canle《Ladrillo-invencion VI》(2022)
Courtesy of W-galeria
Max Gomez Canle《Ladrillo-invencion VI》(2022) Courtesy of W-galeria

初めてあなたの作品に触れる方に向けて、ご自身の制作や表現について教えていただけますか。

私は、自分の実践を「システム」、あるいは「検索エンジン」のようなものだと考えています。それは、作品がゼロから生まれる「オリジナリティ」という考え方を、ずいぶん前に手放したことから始まっています。代わりに私は、蓄積と再構成を通して制作を行っています。

ラテンアメリカの幾何学的抽象絵画という正統的な美術の系譜にある作品を参照しながら、同時にビデオゲームや絵文字といった現代の視覚文化からの要素も取り入れています。私は、歴史的な参照同士を交換し、切り抜かれたようなフォルムが存在する、あるいは互いに対話する風景を構築すること、そして過去の絵画を神聖視された存在から解放し、新たな視点から見直す状況を生み出すことに関心があります。

私の作品は、一見すると同じ世界に属しているとは思えないような異なる時代、イメージ、素材のあいだに、予期しないつながりを生み出すことを目指しています。

Max Gomez Canle《Violeta silvestre》(2025)Courtesy of W-galeria
Max Gomez Canle《Violeta silvestre》(2025)Courtesy of W-galeria

あなたの作品には、美術史への深い眼差しと植物学的な精密さが印象的に共存しています。異なる時代や時間性が一つの画面の中で共存する「レイヤー状の構成」を、どのような考えのもとで用いているのでしょうか。

私は、美術史を人類の「ものを見る方法」のアーカイブとして探究しています。私の制作は、ルネサンスの画家たちやギリシャ・ポンペイの絵画、そして20世紀の前衛芸術との絶え間ない対話の中にあります。それは、影響を受け、置き換え、そして再構成していく終わりのないプロセスです。

私が長年魅了され続けてきたテーマ――絵画とその歴史――を一つに結びつけています。このアーカイブを横断しながら、さまざまなイメージや技法、工芸、芸術運動を取り込み、それらを組み合わせることで新たな関係性を生み出しています。私は芸術を、開かれ、共有され、私たちが世界をより深く理解する助けとなる集合的な思考の方法だと捉えています。

私が絵画というメディアに最も惹かれるのは、一見すると相容れないような素材や参照を受け入れ、それらを調和させる力を持っているからです。私はしばしば、互いに相容れないように見える要素を一つの作品に持ち込みます。そして、そうした出会いを成立させる絵画そのものの力を信頼しています。

私のスタジオでは、好奇心と実験精神が制作の原動力となっています。あらかじめ結論を決めることなく、素材やイメージ、アイデアを収集し、それらが時間の中で思いがけないつながりを見つけていくのを待ちます。このプロセスは、私が撮る写真や観る映画、読む本にも同じように及んでいます。ある参照は作品のコンセプトを形づくり、別の参照は作品の物質性の中へと組み込まれていきます。

私にとって絵画とは、単なるイメージやオブジェではありません。それは、何世紀にもわたって知識を蓄積してきたひとつのテクノロジーであり、今なお私たちが世界について考えるための方法を提供し続ける存在なのです。

Max Gomez Canle《Sin titulo》(2024)Courtesy of W-galeria
Max Gomez Canle《Sin titulo》(2024)Courtesy of W-galeria

制作のプロセスにおいて、特に創作のインスピレーションとなるのはどのような瞬間や体験ですか。

私はもともと好奇心が強く、観察することが好きな人間です。物事がどのようにつくられているのか、そのための道具や技法には昔から強い関心を持ってきました。私は絵画を「表面」として捉え、その表面は支持体にどのような処理が施されているかによって生まれるものだと考えています。そのため、技法は私の制作の中心的な要素となっています。

また私は、絵画をひとつのテクノロジーとしても考えています。どのような素材で構成されているのか、素材によってどのような違いがあるのか、そしてそれぞれにどのようなレシピが存在するのか。私は、絵画の物質的な側面、そして最終的に鑑賞者とイメージとの間に存在することになる素材そのものから作品が生まれていく過程に魅了されています。私の目標は、それらの素材を生命を宿したものへと変化させることです。その意味で、私は絵画を物に命を吹き込む行為だと考えています。

アトリエでは、発見や喜びの瞬間を大切に育てるよう心がけています。そこは私の仕事場であると同時に、私の思考が視覚的な形で存在する、いわば頭脳の延長でもあります。最も充実感を覚えるのは、ほかの方法では決して辿り着けなかったアイデアに出会えたときです。「これこそ自分の作品だ」と感じられる瞬間です。そのようなアイデアに物質的な形を与えることこそ、画家としての私の本質的な仕事だと考えています。

Sin título(2024)》のように、あなたの作品はリネンによる二次元表現から、花崗岩や金箔を用いた三次元的な表現へと展開しています。石という素材が持つ物理的な重量感や永続性は、「想像された風景」や「文化的記憶」の探究にどのような意味をもたらしているのでしょうか。

石という素材を取り入れたことは、私の絵画の中ですでに存在していた問いが自然に発展した結果でした。私は石を、記憶や土地、そして象徴的な意味を運ぶ媒体として捉えています。作品には、アルゼンチン・タンディルで採石された花崗岩の石畳をよく使用しています。この石は、歴史的にブエノスアイレスの街路の多くを舗装するために運ばれてきたものでもあります。そのため、この素材は二つの土地を結びつける存在となり、移動や労働、そして風景そのものの証人へと変化するのです。

また、花崗岩の重量感と永続性は、作品と鑑賞者との物理的な関係性そのものも変化させます。私は単に風景を描写するのではなく、その風景が想起させる場所と同じ物質的な現実を共有する、世界の断片そのものを構築したいと考えています。

より広い視点で見ると、これらの作品は、私たちが環境の中でどのように生き、どのように周囲と関わることができるのかという新たなあり方を探る試みでもあります。そして、自然・文化・歴史のあいだにあり得る新しい関係性を提案するものでもあるのです。

Max Gomez Canle 《ESP 34》Courtesy of W-galeria
Max Gomez Canle 《ESP 34》Courtesy of W-galeria

日本で作品を発表することについて、どのようなお考えをお持ちですか。また、Tokyo Gendaiで来場者にどのような体験をしてほしいと考えていますか。

2023年にTURN+BIENALSURプログラムの一環として行われたコラボレーションを通じて、浦安市の宇田川家住宅で開催した展覧会『Beachcombing』に続き、再び日本で作品を発表できることは、風景や時間、そして物質性に対して独自の関係性を育んできた文化との対話をさらに深める貴重な機会だと感じています。

私は特に、日本が西洋絵画の伝統とどのように向き合ってきたのか、そしてそれが南米の経験とどのように異なるのかに強い関心を抱いています。どちらも同じ視覚文化の遺産を共有しながら、それぞれまったく異なる歴史的・文化的背景からそれを受け入れてきました。この対比は、継承されたイメージを用いながら、風景が絶えず構築され、変化し、再解釈され続ける過程を探求する私の制作にとって、とりわけ重要な意味を持っています。

私は風景を、絶えず変化し続ける存在として捉えています。私たちが目にしているものは決して固定されたものではなく、堆積や移動、侵食、摩耗、そして人々の営みといったさまざまなプロセスの積み重ねによって形づくられています。この考え方は、私自身の制作方法にも深く反映されています。

私は、時間を単なる作品のテーマではなく、作品そのものを構成する物質的な条件として存在させたいと考えています。そのため、一つの画面に対して長い時間をかけて絵具を重ね、研磨し、観察し、何度も手を加え続けます。そうすることで、まるで作品が最初からそこに存在していたかのような、自律した生命を帯び始める瞬間が訪れます。その変化は、作品の中に蓄積された時間があって初めて生まれるものです。

絵画や彫刻が、そのような労働や待つ時間の積み重ねを内包することができたとき、私にとってそれは時間と緊張感を蓄える器となります。フェアを訪れる皆さんにも、それぞれの作品の中に宿るそうした時間の層を、直感的にでも感じ取っていただけたら嬉しく思います。

ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiでの展示を楽しみにしています。

時間を宿した絵画と出会う。——マックス・ゴメス・カンレの作品を会場で。

会期:
2026年9月11日 (金)〜13日 (日) *ヴェルニサージュは9月10日 (木) 

会場:
パシフィコ横浜

ブース:
W-Galería

チケット購入先:

Max Gómez Canle

マックス・ゴメス・カンレ(1972年、アルゼンチン・ブエノスアイレス生まれ)は、アルゼンチン現代絵画を代表するアーティストの一人です。

国立美術学校プリリディアーノ・プエイレドン校で学び、西洋美術史、風景画、視覚文化におけるモチーフを批評的に再解釈し、独自の現代的な視点から絵画表現を展開しています。

これまでに、ブエノスアイレス近代美術館(MAMBA)、Ruth Benzacar Galería de ArteFundación KlemmFLORA ars+natura(ボゴタ)、Casa Triângulo(サンパウロ)などで個展を開催しています。

2022年には、アルゼンチンにおけるこの10年間を代表する画家の一人として評価され、絵画部門のコネックス・プラチナ賞(Konex Platinum Award for Painting)を受賞しました。

作品は国内外の主要な公私コレクションに収蔵されており、ラテンアメリカをはじめ各国で広く展示されています。

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