アーティストインタビュー:池田晃将 螺鈿がひらく記憶の光

Friday 24 July, 2026

数字という無機質な記号が、貝や漆といった自然の素材に置き換えられ、気の遠くなるような手作業の積み重ねによってかたちを得ていくとき、そこには思いがけない静けさと確かな強度が立ち上がります。池田晃将の作品は、情報にあふれた現代において「物質としてのイメージ」をあらためて見つめ直す試みでもあります。漆や螺鈿といった長い歴史を持つ漆芸の技法は、単なる装飾ではなく、作家の手によって見えない時間や記憶の層を物質として立ち上がり、確かな存在へと変換していきます。

本インタビューでは、池田さんの制作の根にある視点や考えについて語っていただきました。

池田さんの制作活動を、まだ作品を見たことがない人に向けて教えていただけますか?また、作品の核となる「数字」のモチーフについて伺いたいです。AIや情報社会を象徴する無機質な数字を、あえて「貝」や「漆」という自然素材で、気の遠くなるような手作業によって形にするプロセスには、どのような意図が込められているのでしょうか?

すべての出発点となったのは、高校で建築を学んでいた頃、ネパールの文化遺産修復のボランティアに参加した経験でした。そこで私は、木彫によって装飾された宗教建築を目にし、それらを制作する工房を訪れました。その光景は資本主義に飲み込まれることのない聖域のようで、文化が日々の営みと共にいまだ生き続けていたのです。

しかし私たちは、そのような実践を、現代の均質化されつつある世界の中で実現する方法を見つけなければなりません。今この時代で崇高を表現する方法の一つとして、「人間の認識を超えるスケール」を装飾として映し出すことが手掛かりになると考え、数字や電子的記号をモチーフとしてきました。情報の伝達手段は土、石、紙、光へと変化しています。その情報の内部に存在する不可視の光を表現する手段として螺鈿を用いています。

漆芸は1200年の積み重ねがある技術です。漆や木、螺鈿もなるべく原産地が近いものを使うよう努力しています。それは歴史からの学びであり、これから1,000年後の未来への責任でもあります。素材の選択や制作に費やす時間は、どこまでも追求することができますが、現在の自分にとって最良の方法によって制作に向き合おうとしています。

池田さんの作品の一つに『Monument of the Aura(アウラの記念碑)』というタイトルがあります。情報の複製が容易な現代において、作品を通じて提示したい「アウラ(唯一無二の存在感)」とはどのようなものですか?

崇高はどこに宿り得るのか、という問いを生涯のテーマとして探し続けています。漆や螺鈿を使い続けているのも、生産や情報が飽和した今、「物質の強度」をより強く感じているからだと思います。

私が深く影響を受けてきた芸術作品の多くは、圧倒的な時間の厚みと高い完成度を備えたものです。手の集積や誠実で緻密な姿勢だけでなく、文化や歴史の気配に興味を持つがゆえに、人類史と地続きのものを作りたいと思っています。

Terumasa Ikeda 《Monument of the Aura》(2025)

制作において最もインスピレーションを受けるのはどんな瞬間ですか?例えば、工房での作業中なのか、あるいは全く別のデジタルな風景を見ている時なのか。その対比に興味があります。

私自身デジタルネイティブですし、工房では私よりも若い世代の仲間たちと共に制作に勤しんでいます。彼らも皆、伝統工芸が背景にありますがゲームや漫画、アニメなどに囲まれて育ったこの時代の人間にしか表現できないものがあるとも考えています。私はそれを、単にアートでも工芸でもない、新しい世界を開いていく大きな動きの一部として捉えています。チームから得られる刺激はとても力になっています。

また、海外に赴き文化遺産を巡る旅も、自分の感覚を再確認するために続けています。

 

日本のアートシーンや、Tokyo Gendaiを訪れる観客に対して、どんな期待や思いを持っていますか?

前回Tokyo Gendaiに参加し、国内外のコレクターの方々、そして作品を鑑賞してくださった皆様と出会えたことは、私にとって大変貴重な経験となりました。日本のアート市場は世界的に見るとまだ弱い、という話を聞くことがあります。しかし私は、国内におけるアートへの関心が確実に高まりつつあることも同時に感じることができました。

日本美術、とりわけ私自身が向き合っている制作姿勢は、しばしば「技術」や「伝統」という言葉の中に回収されがちです。しかし、それらは過去に属するものではなく、現代の感覚や価値観を問い直すための強い言語にもなり得るはずです。その可能性を個人の表現にとどめず、世界へ広がる運動へと変えていくためには、作品の質を高めるだけでは十分ではありません。言語や文化圏を超えた率直な視線、そして忌憚のない批評が今以上に必要だと感じています。

ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiでの展示を楽しみにしています。

池田晃将が映す、時の光を、会場で。

会期:
2026年9月11日 (金)〜13日 (日) *ヴェルニサージュは9月10日 (木) 

会場:
パシフィコ横浜

ブース:
Ippodo gallery Tokyo

チケット購入先: 

池田晃将  

池田晃将は、奈良時代から存在する、漆器にアワビなどの貝殻の真珠層を貼り付ける螺鈿という装飾技法に、レーザー加工・超音波振動といった現代科学技術を取り入れた革新的な表現を展開しています。

なかでも特徴的なのは、数字をデザインしたモノで、昔ながらの意匠に代わり、世界中の誰もが理解できる「数字」という記号を螺鈿に用いました。

さらに集積回路やピクセルなどを、極小の貝片にカットして組み込み、「デジタルと自然」「有機と無機」が交差する唯一無二の表現を確立した、美術界も注目する現代を代表する漆芸作家です。

 

Photo by Pedro M shimura

SUBSCRIBE TO NEWSLETTER

  • This field is for validation purposes and should be left unchanged.