アーティストインタビュー:黒川良一 時間を彫刻する──知覚はどのように生まれるのか

Wednesday 22 July, 2026

音と映像、光を主な素材に、自然現象やデータを解体・再構成しながら「時間そのものを彫刻する」ように作品を制作する黒川良一。押し花とデジタルグラフィックが交錯する《elementum》、音と映像が緻密に響き合う《oscillating continuum》では、自然とデジタル、物質と情報の境界が揺らぎ、鑑賞者の知覚そのものが再構築されていきます。構築と解体を往復しながら生まれるその作品世界は、見る者に新たな認識のきっかけをもたらします。

本インタビューでは、その制作の核にある思考とプロセスをひもときながら、実際の作品空間でしか味わえない知覚の体験へと誘います。

黑川良一《elementum #2》(2018)  Mixed media (H)26.0 x (W)26.0 x (D)1.2 cm Artworks © RYOICHI KUROKAWA, Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art Photo by Ken Kato

作品を初めて目にする方に向けて、黒川良一さんの制作活動の核となっているものは何か教えてください。

音と映像・光を主な素材として、さまざまなフォーマットで作品を制作しています。制作の軸は大きく2つ、自然の再構築と、複数の感覚に働きかける共感覚的な体験の設計です。前者では、自然の物理現象や造形、それを記述した法則など、自然をキャプチャした素材やデータを解体し、再構成することで新たな様相を提示し、後者では、音と光を空間の中でコンポジションし、複数の感覚に同時に作用する体験を構築することを重視してきました。これらを通じて、時間を彫刻するようなアプローチが、長年にわたって制作の中心に位置しています。特定のメッセージを伝えることよりも、作品を通じて鑑賞者の中に新たな気づきや思考を喚起すること、インスピレーションの触媒となること。それが、制作の根底に一貫してあり続けています。

今回展示される《elementum》では押し花とデジタルなグラフィックが、《oscillating continuum》では緻密な音響と映像が交錯します。「自然物や身体性」と「デジタルデータ」という、一見対照的な要素を組み合わせることで、どのような知覚の揺らぎを狙っているのでしょうか?

 

elementumは、本来朽ちていく自然の時間を止め、固定することを起点としています。プレスして乾燥させた植物をさらに砕き再配置するという行為は、それまでデジタル上で行なっていた自然の解体と再構成を、物理的に実践したものです。そうして一度再構築された自然を再びデジタルへと取り込み、色や造形の情報をキャプチャ・分析・画像処理したものを、元の物理的な造形と重ね合わせています。自然とデジタルという異なる二層を同時に知覚させる作品です。oscillating continuumは、2013年に制作したオーディオビジュアルスカルプチャーで、物理的な形を持たない音と映像のデータを、それとは対照的な物理的なオブジェクトへと落とし込み、彫刻として提示した作品です。自然と人工、アナログとデジタル、具象と抽象、音と光といった二項の境界を曖昧にし、その間を浮遊するような知覚の状態を生むこと、あるいはその両項を統合することで互いを際立たせ、補完し合いながら知覚の強度を高めることに重きを置いています。

黑川良一 Ryoichi Kurokawa《oscillating continuum》(2013) Audiovisual sculpture (H)92.4 x (W)80.0 x (D)42.2 cm "Turbulences II", Villa Empain, Brussels, 2013 Artworks © RYOICHI KUROKAWA Photo courtesy of Studio RYOICHI KUROKAWA

黒川さんの作品は、緻密な構成の中に「構築と解体」のプロセスが常に存在しているように感じます。制作において、最もインスピレーションを受けたり、思考が加速したりするのはどのような瞬間ですか?

構築と解体というプロセスに関しては、基本的には意図的にその関係性を組み立てていますが、その設計の過程で予期しない現象が生まれたときにも積極的に取り込むようにしています。整然と積み上げていくだけでなく、ときに意図的にコントロールを手放すことで、作品にまた別の価値が宿ることもあると感じています。制作におけるインスピレーションは、日常的なことや些細なことを含め、あらゆるものから得ていますが、やはり原点の多くは自然の中にあると思っています。自然の中の現象や構造、パターン、テクスチャ、あるいはそれらを記述した法則や自然由来のデータをどのように再構築し、そこに潜在する構造を顕在化させ、別の様相として具現化するかということが根底にあるため、そこからアイデアを展開させていくことが多いです。制作の初期段階、具体的な作業に入る前に、コンセプトが少しずつ輪郭を帯びてくる瞬間が、最も思考が加速している時間なのかもしれません。

黑川良一 Ryoichi Kurokawa《elementum #11》(2018) Mixed media (H)26.0 x (W)26.0 x (D)1.2 cm Artworks © RYOICHI KUROKAWA, Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art Photo by Ken Kato

Tokyo Gendaiという国際的なアートフェアの場で、日本のアートシーンや観客に対して、どのような期待や思いを持っていますか?

日本のアートシーンにおいて、こうした国際的なフェアが幅広い視点をもたらす場として重要だと感じています。自分でも気づかないうちに埋め込んだかもしれない要素を、鑑賞者がどのように感知するのかに興味があります。国際的なアートフェアという多様な文脈の中で、作品が思いもよらない読み替えをされることも含めて、オープンにフィードバックを受け取れる場になればと思っています。

ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiでの展示を楽しみにしています。

黒川良一が構築する、知覚の揺らぎと時間の彫刻を、会場で。

会期:
2026年9月11日 (金)〜13日 (日) *ヴェルニサージュは9月10日 (木) 

会場:
パシフィコ横浜

ブース:
Takuro Someya Contemporary Art

チケット購入先:

黒川良一 Ryoichi Kurokawa

1978年、大阪生まれ。1999年より京都にて映像・サウンド作品の制作を開始。2003年からバルセロナの音楽フェスティバル「Sónar」等でYMOメンバー細野晴臣と高橋幸宏によるSketch Show、HUMAN AUDIO SPONGE(Sketch Show+坂本龍一)のライブ映像を担当するようになる。2010年より現在までベルリンを拠点に活動。これまでの主な作品発表の場として、「GLITCH」(ピナコテーク・デア・モデルネ、ドイツ、2023年)、「Coder le monde」(ポンピドゥー・センター、フランス、2018 年)、「The Dream of Forms」(Palais de Tokyo、フランス、2017年)、「第54回ヴェネツィア・ビエンナーレ」(2011年)、「Synthesis」(テート・モダン、イギリス、2007年)等。2010年にアルス・エレクトロニカ(オーストリア)にて名誉あるデジタル・ミュージック&サウンド・アート部門でゴールデン・ニカ賞(最優秀賞)、2025年にルーヴル・アブダビにて第5回リシャール・ミル・アート・プライズを受賞。

SUBSCRIBE TO NEWSLETTER

  • This field is for validation purposes and should be left unchanged.