アーティストインタビュー:Qin Feng  混沌と静寂、そのあわいに宿る生命——筆がひらく文明の風景

Tuesday 21 July, 2026

一瞬で画面を切り裂くような力強い筆致と、息をのむほど静かな余白。その相反するエネルギーが共存するQin Feng(秦風)の作品は、書の伝統を礎としながら、現代における新たな抽象表現を切り拓いてきました。墨や紙という東洋の素材を用いながら描き出されるのは、文明の誕生と循環、人と自然、混沌と秩序といった、時代や文化を超えて響く普遍的なテーマです。見るたびに異なる表情を見せるその作品は、理屈ではなく感覚へと静かに語りかけます。

本インタビューでは、Qin Feng氏が長年探求してきた創作の原点や、日本とのつながり、そして作品に込める思いについて語っていただきました。ぜひ会場で、その圧倒的なスケールと筆跡が生み出すエネルギーを体感してください。

Qin Feng《Desire-Scenery 01》(2020) Acrylic on linen paper 160 x 132-cm

日本で初めて作品をご覧になる方に向けて、ご自身の制作活動と、作品を通して表現したい世界観やメッセージについて教えてください。

私の制作活動の根底にあるのは、「気」と「道」を視覚的に綴ることです。

私はさまざまなメディアを通して、特定の対象や固定された解釈ではなく、混沌としながらも絶えず更新され続ける宇宙の根源的な姿を表現したいと考えています。自由奔放な飛沫や、極限まで削ぎ落とされた余白といった私の筆致や表現行為は、イメージ・気・道が相互に変容していくプロセスと、その痕跡なのです。

私が伝えたい世界観は、東洋哲学に根ざした「万物一体」の世界です。マルチメディアによる制作の中で、私は意図的に混沌と静寂、始原と消滅を対峙させ、虚と実が重なり合う陰影を描き出しています。

鑑賞者には、作品を知覚し、静かに向き合うことで、ほんのひととき言葉の制約を忘れ、より直感的で本能的な感覚へ立ち返ってほしいと願っています。その瞬間、私たちは解き放たれるような感覚とともに、自然への深い畏敬の念を体験できるのではないでしょうか。

Qin Feng《Desire Scenery 02》(2018) Acrylic on linen paper 217 x 128cm

作品に繰り返し登場する「一」「円」「赤い線」は、人類文明の誕生・衰退・再生の循環を象徴していると伺いました。この壮大な歴史を抽象的な筆致へと昇華する際、どのような思考を経て表現を構築されているのでしょうか。

「一」「円」、そして赤い線は、この40年間取り組んできた《文明の風景》シリーズにおける核となる構造であり、メタ言語でもあります。それらは、文明の歴史と対話するための、私自身の母語なのです。

複数のメディアを横断するこの創作行為は、実のところ文明を抽象的に定量化する試みでもあります。抽象的な論理によって文明の風景を構築し、地域ごとの文明が育んできた文化的背景や自然の気配を描き出そうとしています。

私の「母語」には、数千年にわたる東洋文化や書の精神と本質、さらにはシルクロード沿いで交錯してきた多様な文明の痕跡が宿っています。しかし制作の瞬間には、それら壮大な歴史は自らの内面へと取り込まれ、生命の歩みを直感的に表す衝動へと変換されます。

ある科学者は、「科学の究極の問いは『1』と『0』である」と語りました。私にとって、「一」「円」、そして赤い線は、生命の循環と自然界における万物の回帰を象徴しています。そして墨の痕跡は、その循環を貫く一筋の光であり、文明の血脈が受け継がれていく証であり、歴史の中で一人の人間が残す覚醒の痕跡でもあります。

筆を執る前には、自然や音楽、さまざまなイメージを通して心を整え、その作品に最もふさわしい素材や表現方法を考えます。時には具体的なプランを書き留めることもあります。

しかし、いざ制作が始まれば、身体・呼吸・意識が一つになる状態を目指します。身体と精神、そして手が素材に向かう速度や力加減は、寸分の狂いもなく一致していなければなりません。

一見すると即興的に見える表現も、その背後には「文明の風景」というテーマについて積み重ねてきた数十年にわたる思索があります。それは理性を感性へと昇華し、その感性を再び一つの「形」として噴き出させるプロセスなのです。

Qin Feng《Round Sky and Square Earth Series 2312》(2021) Acrylic on rice paper 70 x 70cm

作品には、静寂や瞑想性と、爆発的なエネルギーが共存しているように感じます。制作の中で、「これだ」と確信する瞬間や、強いインスピレーションを感じるのはどのような時でしょうか。

「これだ」と思える瞬間は、極限まで高揚した時ではなく、むしろ均衡が生まれた瞬間に訪れます。

制作中、私はいつも刃の上を歩いているような感覚になります。片側には、原初的な欲望や怒りを嵐のように噴き出す激しい衝動があり、もう片側には、宇宙の虚空にも似た深い瞑想があります。

もし作品に爆発だけがあれば、それは単なる感情の発散に終わってしまいます。反対に静けさだけでは、空虚な装飾になってしまうでしょう。インスピレーションが訪れるのは、その二つの力が激しく拮抗し、今にも均衡が崩れそうな臨界点です。

その瞬間、混沌の中から不思議な秩序が立ち現れます。それはまるで太極図の中で陰が陽へ、陽が陰へと移り変わる弧のようです。黒と白、天と地、人と世界を切り裂く稲妻のような境界線が現れた時、私はある神秘的な法則と生命の脈動が、万物を一つの調和へ導いたことを感じます。その瞬間、作品は生命を宿します。もはや「私が描いている」のではなく、作品そのものが本来の生命力を獲得した状態になるのです。

Tokyo Gendaiでの展示、そして日本のアートシーンや来場者に対して、どのような期待をお持ちでしょうか。また、ご自身の作品と日本の伝統や精神性との共鳴についてはどのようにお考えですか。

今回の展示は、私にとって長く待ち望んでいた「再会」です。

日本は私にとって、作品を発表する場であるだけでなく、深い対話が生まれる場所でもあります。何年も前、ニューヨークのPACEで、井上有一さんや李禹煥さんをはじめとする作家たちと展示や交流を行ったことを、今でも鮮明に覚えています。

私が日本のアートシーンに期待しているのは、静かな共鳴です。

日本の観客は非常に繊細で独自の感性を持ち、儒教・仏教・道教の精神文化を深く受け継いでいます。また、現代美術における「もの派」に象徴される大和文化の気質も、大きな影響を与えてきました。

私たちは共通する文化的な根を持っています。そのような日本のアート関係者や観客の皆さんと、この場で対話を交わせることを大変光栄に思っています。この展示が、言葉を超えて心と心を結ぶ対話の場となることを願っています。

ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiでの展示を楽しみにしています。

Qin Fengが描く文明の風景を、会場で。

会期:
2026年9月11日 (金)〜13日 (日) *ヴェルニサージュは9月10日 (木) 

会場:
パシフィコ横浜

ブース:
Art of Nature Contemporary

チケット購入先: 

Qin Feng(秦風)は1985年に山東工芸美術学院を卒業。これまでにベルリン芸術大学および北京・中央美術学院の客員教授を務め、1993年には北京現代美術館を設立、2020年には秦漢現代芸術研究院を創設しました。現在は、ハーバード大学の現代美術研究フェローを務めています。

これまで国内外で数々の美術賞を受賞し、その作品はサザビーズやクリスティーズのオークションにもたびたび出品されています。また、ヴェネツィア・ビエンナーレをはじめ、メトロポリタン美術館で開催されたアジア美術展、大英博物館ボストン美術館など、国内外で数百に及ぶ展覧会に参加しています。

作品は、大英博物館メトロポリタン美術館ボストン美術館をはじめとする世界有数の美術館に収蔵されています。また、数百点に及ぶ作品を、美術教育、災害支援、孤児支援などの社会貢献プロジェクトへ寄贈するなど、文化・教育分野への活動にも積極的に取り組んでいます。

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