Lauren Quinの絵画には、ひとつの言葉やイメージだけでは捉えきれない、独特の生命感が宿っている。身体や風景を思わせる有機的な形態は、抽象と具象のあいだを自由に行き来しながら、見る者それぞれの記憶や感覚を呼び起こしていく。
幾重にも重なるディテールと大胆なスケール。遠くから眺め、近づいて見ることで、画面には新たな像が次々と浮かび上がる。明確な答えを示すのではなく、見るという行為そのものを通して未知の感覚へと誘う絵画だ。
今回のTokyo Gendai、Pace Galleryのブースでは、Lauren Quinの新たな作品群を紹介する。作品の前に立ったとき、そこには何が立ち上がるのか。その体験を、ぜひ実際の作品とともに味わってほしい。
あなたの作品を初めてご覧になる方に向けて、ご自身の制作活動について教えてください。絵画を通して、どのようなテーマや感覚を探求されていますか?
私は、小さな断片同士がどのように結びつき、一つの全体を形づくるのかということに強く惹かれています。私の大きな絵画は、無数の小さなディテールが重なり合う「合唱」のようなものです。ネガティブな痕跡がポジティブへと転じ、偶然とコントロールが同じくらいの比重で共存しています。調和のある繊細さを探しながら、ひとつひとつの決断を幾重にも重ねていきます。
私は完成形を決めて描き始めることはありません。絵と格闘し、ときに駆け引きを重ねながら向き合います。そして最後には、作品だけでなく私自身も、その制作を通して変化しているのです。
制作のなかで、最もインスピレーションを受けるのはどのような瞬間ですか。また、日常の出来事や風景はどのように作品へと取り込まれていくのでしょうか。
絵を描くという行為には、自分の感覚を磨き直してくれる力があります。スタジオを出た後の私は、まるで感覚が開かれたような状態になり、世界をこれまでとは違う目で見られるようになります。
そして私は、インスピレーションは「距離」で測れるものだと感じています。毎日スタジオから家へ帰る道のりで、スタジオから離れれば離れるほど、「あの絵にまだ伝えたかったこと」が次々と思い浮かび、後悔と焦りに満たされます。まるで会話の途中で無理やり引き離されたような感覚で、その続きを描きたくてたまらなくなるのです。
あなたの作品には、身体や内臓、風景、生き物を思わせる有機的なフォルムがしばしば現れます。一つの意味に固定されるのではなく、多様な解釈に開かれたイメージを生み出すことには、どのような意味がありますか。
私が絵の中で目指しているのは、この世界の中で見つけたある種の「共鳴」を描くことです。
私たちが言葉で名づけられるものと、実際に感じるものとの間には、不思議な引力を伴った距離があります。シンボルと言葉は互いに受粉し合うように作用し、その結果として思いがけない方向へと導かれていきます。
私にとってこれは、どこか迷信的ともいえる抽象表現の実践であり、その答えは毎回異なります。そして、最も力強いイメージというのは、まるでずっと以前からそこに存在していて、自分がようやく見つけ出しただけであるかのように感じられるものなのです。
近年の作品では、抽象と具象が自然に行き来する独自の視覚言語がさらに深まっているように感じられます。これまで制作を続けるなかで、絵画への向き合い方や考え方はどのように変化してきましたか。
私は、抽象と具象を対立するものとして考える必要はないと思っています。
もし具象が「崖の縁」を描写することだとすれば、抽象とは「落下する感覚」そのものです。どれほど直接的な連想であっても、それは有効であり、多くの場合もっとも正直なものでもあります。
絵画は、私自身の本質と向き合わせてくれる存在です。長年制作を続けるなかで、自分の作品に繰り返し現れる癖のようなものに気づくようになりました。私はその癖を、まるで音量を調整するダイヤルのように扱い、強めたり弱めたりしながら、それでも作品の中に何が残るのかを試しています。
今年初めには、ほぼモノクロームに近い作品群による展覧会を開催しました。そして今回の展示では、「スケール(大きさ)」そのものも、一つの表現媒体として扱っています。
Tokyo Gendaiには、日本国内だけでなく世界中から多くの来場者が訪れます。作品をご覧になる方々に、どのような体験や発見を持ち帰ってほしいと考えていますか。
この作品群は、実際に目の前で見ることに大きな意味があります。
私の絵画は、スクリーン越しに見るのと実物を見るのとでは、まったく異なる存在として立ち現れます。だからこそ、この新しい作品群を実際の空間で皆さんにご覧いただけることを、とても楽しみにしています。
これまで私の作品をご覧になったことがある方にも、今回はきっと新たな驚きを感じていただけることを願っています。
ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiでの展示を楽しみにしています。
作品の前でしか出会えない感覚 Lauren Quinの世界を、ぜひ会場で。
会期:
2026年9月11日 (金)〜13日 (日) *ヴェルニサージュは9月10日 (木)
会場:
パシフィコ横浜
ブース:
Pace Gallery
チケット購入先:
Lauren Quin(1992年、ロサンゼルス生まれ)は、絵画という行為を、絶え間なく探究を続けるプロセスとして捉えている。彼女の絵画は、極めて直感的でありながら深い思考に裏打ちされ、同時に堆積物のようでもあり、考古学的な探究を思わせる。躍動感に満ちた鮮烈な色彩の形態によって構成される作品は、抽象表現に対する私たちの認識を揺さぶるとともに、言語や記号が持つ可変性を探求している。
2015年にシカゴ美術館附属美術大学(School of the Art Institute of Chicago)でBFAを、2019年にイェール大学美術大学院(Yale School of Art)でMFAを取得。2017年には、メイン州のSkowhegan School of Painting and Sculptureのレジデンス・プログラムに参加した。
近年の主な個展に、Vocal Fry(Friends Indeed Gallery、サンフランシスコ、2021年)、Pulse Train Howl(Blum & Poe、ロサンゼルス、2022年)、Sagittal Fours(Pond Society、上海、2022年)、My Hellmouth(Nerman Museum of Contemporary Art, Johnson County Community College、オーバーランドパーク、カンザス州、2023年)、Logopanic(125 Newbury、ニューヨーク、2024年)、Eyelets of Alkaline(Pace Gallery、ロサンゼルス、2026年)などがある。
作品は、コロンバス美術館(オハイオ州)、ダラス美術館(テキサス州)、サンフランシスコ美術館、ハーシュホーン博物館と彫刻の庭(スミソニアン博物館群、ワシントンD.C.)、龍美術館(上海)、ボストン美術館、余徳耀美術館(上海)をはじめ、世界各地の美術館・公共コレクションに収蔵されている。
現在、ロサンゼルスを拠点に活動。





