身近なものを入り口に、歴史や社会、私たちの「当たり前」を軽やかに問い直してきた小沢剛。ユーモアと鋭い批評性をあわせ持つ作品は、国内外で高い評価を受けています。今年のTokyo Gendaiでは、初期作から最新作までを通して、その思考の軌跡を紹介します。パンゲア大陸をモチーフにした新作をはじめ、「つながり」と「分断」を見つめる作品群には、今を生きる私たちへの静かな問いが込められています。
インタビューでは、小沢剛の制作の原点と、作品に込めた思いについて伺いました。
小沢さんは、牛乳箱を使った「なすび画廊」や醤油で描く「醤油画」など、既存の枠組みを軽やかに飛び越える作品を発表されてきました。初めて小沢さんの作品に触れる方に向けて、ご自身の制作活動の核にあるものを教えていただけますか。
ぼくの作品は、身近で些細なものから始まることが多いです。牛乳箱、醤油、野菜、地蔵など、誰もが知っているものを入り口にしています。それらを扱う目的は、日常の中に埋もれている歴史や社会、人との関係を、少し違う角度から見直すことにあります。
私は、美術は新しいものを発明するというよりも、見慣れた世界の見え方を少しだけずらすことだと思っています。そのずれによって、それまで気づかなかった風景や関係が立ち上がってくることがあります。
作品をつくるたびに素材も方法も変わりますが、一貫しているのは、世界を少しだけ斜めから眺めてみることです。その隙間から、まだ名前のついていない何かが見えてくる。その瞬間を見てみたいという気持ちが、制作の核にあるのかもしれません。
小沢さんは、歴史や社会、日常にある風景を独自の視点で再構築されていますが、制作において最もインスピレーションを受けるのは、どのような瞬間や対象ですか?
何か特別なものに出会うというより、「当たり前」と思っていたことに、小さな違和感を覚えた瞬間でしょうか。
例えば、何気ない風景や古い制度、歴史の断片、誰も気に留めないようなものでも、少し視点を変えるだけで、まったく違う意味を持ち始めることがあります。
制作とは、新しいものを生み出すことではなく、世界の中にずっとあったものを、少し違う場所へ置き直すことなのかもしれません。そうすると、それまで黙っていたものが急に話し始めるような気がすることがあります。
小沢さんの作品には常に「遊び心」と「鋭い批評」が共存しています。深刻になりがちな社会的なテーマを、あえて「軽やかさ」を伴う表現へと昇華させる際に、大切にされていることは何でしょうか?
社会的なテーマを扱うときほど、答えを用意しないことを大切にしています。作品が結論を語ってしまうと、そこで思考が止まってしまう気がするからです。作品を通して何かを主張するというより、一緒に考えるための場をつくりたい。美術は答えを示すものではなく、問いが長く残るための装置なのだと思っています。
今回のTokyo Gendaiでは、パンゲア大陸をモチーフにした最新作や、コロナ禍を経て描かれた作品も展示されます。分断や変化を経験した今の時代に、これらの作品を通じてどのような「繋がり」や「問い」を提示したいと考えていますか?
パンゲアは、かつて大陸が一つだったという壮大な時間の物語です。ぼくは、その話を過去の出来事としてだけ見ているわけではありません。
分かれたものは、本当に分かれたのでしょうか。人も歴史も文化も、切れてしまったように見えて、どこか地下では今もつながっているのではないか。作品をつくっていると、そんな感覚になることがあります。
コロナ禍を経て、私たちは「つながること」と「距離を取ること」の両方を経験しました。そのどちらが正しいということではなく、私たちは何によって結ばれ、何によって隔てられているのか。その境界線を少しだけ揺らしてみたいと思っています。
今回のプレゼンテーションは、個人コレクターにも開かれた「宝箱をひっくり返したような」展示になると伺っています。日本のアートシーンや、会場を訪れる観客に対して、どのような期待やメッセージをお持ちですか?
今回は初期の作品から最新作まで、さまざまなシリーズが一つの空間に集まります。振り返ると、ずいぶん寄り道をしながら制作してきたようにも思いますが、不思議なことに、それぞれがどこかでつながっているようにも感じています。
アートフェアは作品を購入する場所であると同時に、作家と偶然出会う場所でもあります。作品の意味を理解しようと構えなくても構いません。「何だろう」「少し気になる」と思っていただけたら、それが作品との最初の出会いになると思います。
会場を後にしたあとも、ふと「あれは何だったんだろう」と思い出す瞬間があれば嬉しいですね。作品は展示室の中だけで完結するのではなく、その後の時間の中で少しずつ育っていくものなのかもしれません。
ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiでの展示を楽しみにしています。
世界を少しだけ違う角度から見る。小沢剛の作品を、会場で。
会期:
2026年9月11日 (金)〜13日 (日) *ヴェルニサージュは9月10日 (木)
会場:
パシフィコ横浜
チケット購入先:
小沢剛
1965年東京生まれ。1991年東京藝術大学大学院美術研究科壁画専攻修了。ユーモアを交えながら歴史や社会を鋭く批評する絵画、写真、映像、インスタレーションといった多様な手法の作品を制作。世界各地に自作の地蔵を置き写真におさめた作品「地蔵建立」、牛乳箱を用いてアートを展示する超小型移動式ギャラリー「なすび画廊」、美術史の名画を醤油で模写する「醤油画資料館」、野菜で作られた武器を持つ女性のポートレイトのシリーズ「ベジタブル・ウェポン」などが代表作として知られています。
主な個展に2004 年「同時に答えろYes とNo!」(森美術館)、2009 年「透明ランナーは走りつづける」(広島市現代美術館)、2012 年「小沢剛: あなたが誰かを好きなように、誰もが誰かを好き」(福島県立美術館、豊田市美術館), 2018 年「小沢剛 不完全–パラレルな美術史」(千葉市美術館)、2025年「小沢剛の讃岐七不思議」(香川県立ミュージアム) を開催。2016年「さいたまトリエンナーレ 未来の発見!」や2017年「ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス」、2025年「時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010」(国立新美術館)、ベルリンビエンナーレなどの芸術祭に参加。2022年3月にベネッセアートサイト直島にオープンしたヴァレーギャラリーには、新たに一部改変された「スラグブッダ88」が恒久展示されている。M+香港、国立国際美術館、東京都現代美術館など、世界各地の美術館に作品が所蔵されている。
また、中国人アーティストのチェン・シャオション、韓国人アーティストのギムホンソックとの、さまざまな境界を越えたコミュニケーションをテーマに活動しているアーティスト集団「西京人」での展示では、2016年「西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。」(金沢21世紀美術館)、2018年「Art and China after 1989: Theater of the World」(ソロモン R.グッゲンハイム美術館,ニューヨーク)、 (グッゲンハイム・ビルバオ,スペイン)などに参加。





