絵画とは何か、その問いを描き続ける Choi Myoung Young インタビュー

Thursday 6 August, 2026

1941年生まれの Choi Myoung Young(チェ・ミョンヨン)は、韓国を代表する単色画(Dansaekhwa)の作家として、半世紀以上にわたり「絵画とは何か」という根源的な問いと向き合い続けてきた。1970年代以降、一貫して取り組む《Conditional Planes》シリーズでは、支持体と素材、身体と行為の関係性を探究しながら、「平面」という絵画の条件そのものを作品へと昇華させている。静かに反復される行為の積み重ねから生まれる画面は、時代や流行を超えて、いまなお世界中の美術館やコレクターを惹きつけ続けている。

Tokyo Gendaiでは、その長年の思索と実践から生まれた作品を、実際のスケールや質感とともに体感できる貴重な機会となる。本インタビューでは、80代を迎えた現在もなお制作を続ける Choi が、変わることなく追い求めてきた絵画への問い、制作を支える哲学、そして未来へ受け継がれる芸術について静かに語った。

Choi Myoung Young《Conditional Planes 97815》(1997)
Acrylic on canvas 182×227cm
Courtesy of the artist and The Page Gallery
Choi Myoung Young《Conditional Planes 97815》(1997) Acrylic on canvas 182×227cm Courtesy of the artist and The Page Gallery

初めて作品をご覧になる日本の読者に向けて、ご自身の制作活動と代表作《Conditional Planes》シリーズについてご紹介いただけますか。

私は1970年代から韓国の単色画(Dansaekhwa)の作家として活動し、《Conditional Planes》シリーズを通して、一貫して「二次元の平面における絵画のリアリティとは何か」という問いを追求してきました。

このシリーズには、時間の蓄積や、制作という行為のなかに宿る精神性といった、単色画を特徴づける本質が込められています。

平面性、中心を持たない構成、反復、素材の堆積、そして単色性——そうした絵画を構成する根源的な要素と向き合いながら、物質と精神が交差するプロセスを積み重ねていく。その先に、自分自身にも予測できない世界が立ち現れることを目指して制作しています。

作品からは、時間の蓄積や反復による緻密なプロセスが強く感じられます。制作において、最もインスピレーションを受けるのはどのような瞬間でしょうか。

私の作品は、特別な出来事や劇的なひらめきから生まれるものではありません。私は、インスピレーションを待ちながら制作することもありません。

日々、平面という条件に向き合い、そのなかで道を見失い、また見つける。その繰り返しこそが、私の創作の源になっています。

その先に何が現れるのかは、私自身にもわかりません。それでも、穏やかで平静な心を保ちながら描き続けています。

私にとって何より大切なのは「呼吸」です。その呼吸が変化を選び取り、良い選択が作品をより良い方向へ導いてくれる。私はただ、平面という条件と向き合うことで、自らの存在を確かめ続けているのです。

Choi Myoung Young《Conditional Planes 1850》(2018)
Acrylic on canvas 162.1×227.3cm
Courtesy of the artist and The Page Gallery
Choi Myoung Young《Conditional Planes 1850》(2018) Acrylic on canvas 162.1×227.3cm Courtesy of the artist and The Page Gallery

《Conditional Planes》シリーズでは、キャンバスを単なる「支持体」や「背景」ではなく、素材と行為が交わる「条件」として捉えています。「平面」という究極の制約のなかで、どのように表現の自由を見出しているのでしょうか。

《Conditional Planes》シリーズの根底には、支持体(キャンバス)と素材との「条件的な関係」があります。私は、それこそが二次元絵画を成立させる根本的な原理だと考えています。

制作では、その関係性を身体を介した反復的な行為によって築き上げていきます。平面という制約のなかで繰り返される無数の選択と反復が、私にとって芸術的自由を生み出す手段となります。

そうして生まれた作品は、キャンバスの内部にとどまることなく、その外側の空間へと絶えず広がり続けます。その過程を通して、物質と精神が響き合い、変化し続けるリアリティを作品のなかに体現したいと考えています。

1941年のお生まれであり、長年にわたり韓国現代美術の歩みを見つめ、その歴史を築いてこられました。これまでを振り返って、現代を生きるアーティストたちに伝えたい美意識や哲学はありますか。

グローバル化と情報化が進む現代においても、韓国現代美術は、単色画に象徴されるように、西洋美術史の方法論とは異なる独自の発展を遂げてきました。

現代を生きるアーティスト、とりわけ地域の歴史や文化的伝統に根ざしながら創作を続ける人々にとって、「法古創新(古きを学び、新しきを創る)」という精神は、これまで以上に重要になっていると私は考えています。

それは、伝統に宿る精神性を現代の表現へと置き換え、新たな言語として生かしていく姿勢です。同時に、自らのアイデンティティを絶えず問い続けながら、個人的な物語を世界に通じる普遍的な表現へと昇華していくことでもあります。

さらに、伝統と現代を創造的に結びつけ、物質と存在について深く思索し、生成と変化の美学、そしてあらゆるものが関係性の中で成り立っているという哲学を育んでいくことでもあるのです。

Choi Myoung Young《Conditional Planes 22-520》(2022)
Acrylic on canvas 162.2×193.5cm
Courtesy of the artist and The Page Gallery
Choi Myoung Young《Conditional Planes 22-520》(2022) Acrylic on canvas 162.2×193.5cm Courtesy of the artist and The Page Gallery

Tokyo Gendaiは、多様な視点や人々が集う国際的なアートフェアです。日本や世界の来場者、日本のアートシーンにどのような期待を寄せていますか。

Tokyo Gendaiは、長年にわたり東アジアの現代美術を牽引してきた日本が、あらためて世界へ向けてその存在感を示す重要な場だと感じています。

国際的なアートシーンを見渡し、新たな才能を発掘し育て、文化的な交流や継承を促す場として、世界の美術界に大きく貢献していくことを期待しています。

私は1970年代から、日本の「もの派」と韓国の「単色画」が活発に交流していた時代を実際に経験してきました。その立場から見ても、Tokyo Gendaiのような国際的な展示空間が、過去に築かれた歴史をあらためて結び直し、新たな出会いと対話を生み出す場となることを心から願っています。

ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiでの展示を楽しみにしています。

絵画の本質を探る、Choi Myoung Youngの世界を会場で。

会期:
2026年9月11日 (金)〜13日 (日) *ヴェルニサージュは9月10日 (木) 

会場:
パシフィコ横浜

ブース:
The Page Gallery

チケット購入先:

Choi Myoung Young(チェ・ミョンヨン、1941年生まれ)は、韓国の単色画(Dansaekhwa)を代表する作家の一人であり、東洋の文人精神を背景に、キャンバスの表面と絵画素材との関係性を探求し続けています。

代表作《Conditional Planes》シリーズでは、二次元芸術の根源的な本質に焦点を当て、「平面とは何か」という問いを、長年にわたる制作の積み重ねを通して追求しています。筆、ローラー、錐、指先などを用いた反復的かつ身体的な行為によって、Choiは作家と画面との関係性を探ります。その過程で、単純化された形態は繰り返し現れては消え、拡張と縮小の無限の循環を生み出します。

原色と繊細な幾何学的ラインによって構成される抑制された表現は、単色画が持つ精神性と深い静けさを映し出しています。

国際的にも高く評価されるChoiの作品は、韓国国立現代美術館(MMCA)、東京都現代美術館、サムスン美術館リウムをはじめとする主要なコレクションに収蔵されています。また、近年ではグッゲンハイム美術館やハマー美術館での展示を通じて、その芸術的遺産は世界的に認められ続けています。

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