一枚の刷りに宿る、版画の奥深さ — John Szoke Gallery インタビュー

Friday 14 August, 2026

「同じ絵なのに、なぜこんなに違って見えるのだろう?」

そんな発見に出会えるのが、John Szoke Galleryのブースです。

1974年の創設以来、同ギャラリーは紙作品を専門に扱い、特にパブロ・ピカソとエドヴァルド・ムンクの版画に力を入れてきました。長年にわたり、一点一点の作品が持つ個性だけでなく、それぞれの版画が生まれるまでの制作過程や、その背景にある芸術的・歴史的文脈についても丁寧に探究してきました。

今回のTokyo Gendaiでは、ピカソの《Suite Vollard》をはじめ、希少な初期刷りなど長年にわたる専門的な眼によって選び抜かれた作品が並びます。紙の質感、インクの濃淡、線の繊細さ――写真や画面では見えにくい違いに目を凝らすことで、作品の新たな魅力が見えてきます。

知れば知るほど面白くなる、紙とインクが生み出す豊かな世界。今回は、John Szoke氏ご本人に、長年作品と向き合ってきたからこそ見えてくる、版画の奥深い魅力について伺いました。ぜひ会場で、一枚の作品の奥深さとじっくり向き合ってみてください。

©John Szoke Gallery
©John Szoke Gallery

ギャラリーの歴史と、なぜ作品の中でも紙作品を専門に扱われているのか、教えていただけますか?

John Szoke Galleryは、ニューヨークを拠点に、パブロ・ピカソとエドヴァルド・ムンクの紙作品を専門に扱うギャラリーです。長年にわたり、この2人の作家による版画、素描、グラフィック作品について、専門的な知識と理解を深めることに力を注いできました。

紙作品は、作家の創作プロセスをより身近に感じることのできる、とても親密な表現だと考えています。素描からは、作家の手の動きやその瞬間の筆致を直接感じ取ることができます。一方、版画からは、異なる刷りの段階や技法、インク、紙によって、一つのイメージがどのように発展していったのかを見ることができます。こうした細部を通して、完成した作品だけを見るのではなく、作家がどのように試行錯誤し、修正を重ね、選択を行っていったのかを理解することができます。

私たちは、卓越した品質、保存状態、希少性、来歴を備えた作品に強く惹かれています。私たちの役割は、単に有名なイメージを紹介することではありません。同じイメージの作品であっても、なぜある一枚が別の一枚よりもはるかに重要なのか。その違いを、コレクターや来場者の皆さまに理解していただくことも、私たちの大切な役割だと考えています。

Tokyo Gendaiでの展示を通して、こうした専門的な視点を、ぜひ実際に作品をご覧いただきながら体験していただければと思います。

PABLO PICASSO
[Drawing] Homme au Parapluie assis à une Table à l’Intérieur d’un Café
1914 (Paris)
Conte crayon on paper
Sheet: 9 3/8 x 9 1/4 inches
Framed: 18 1/8 x 17 3/8 inches
(Zervos, vol. XXIX, no. 90)
PICP2016018
PABLO PICASSO [Drawing] Homme au Parapluie assis à une Table à l’Intérieur d’un Café 1914 (Paris) Conte crayon on paper Sheet: 9 3/8 x 9 1/4 inches Framed: 18 1/8 x 17 3/8 inches (Zervos, vol. XXIX, no. 90) PICP2016018

今回の展示には、プレートにスティール・フェイシング(鋼鉄加工)が施される前に刷られた「early pulls(初期刷り)」が含まれていると伺いました。専門家の視点から、これらの作品が特に注目すべきものである理由を教えていただけますか?

初期刷りは、専門家にとって最も心を躍らせるものの一つです。銅版がまだ新しく、繰り返し刷ることによって細部の繊細さが失われていく前に刷られたものだからです。

凹版印刷では、金属製のプレートに線や質感を刻み込むことでイメージをつくります。大量の刷りを行う前には、プレートの耐久性を高めるため、「スティール・フェイシング」と呼ばれる加工が施されることがありました。これによって、より多くの作品を刷ることが可能になります。一方、スティール・フェイシングが施される前に刷られた最初期の作品には、後の刷りでは保たれない豊かさや繊細さが残されていることがあります。

インクの色がより深く感じられたり、線がより鮮明であったり、微妙な濃淡の表現により豊かな空気感が感じられたりします。影の柔らかさや人物の肌の質感、繊細な線の表現といった細部が、驚くほど生き生きと感じられることもあります。

こうした違いは、写真ではなかなか伝わりにくいものです。初期刷りと別の刷りを実際に並べて見ることで、版画という技法が持つ物質的な美しさや、なぜ専門家が一枚一枚の刷りについて何年にもわたって研究するのかを、より深く理解していただけると思います。

©John Szoke Gallery
©John Szoke Gallery

ブースの見どころの一つが、ピカソの《ヴォラール・スイート(Suite Vollard)》です。このシリーズにおけるミノタウロスの作品には、どのような意味があるのでしょうか?

《ヴォラール・スイート》は、主に1930年代に制作された、ピカソの版画作品における最も重要な仕事の一つです。一つの連続した物語を描いたシリーズというよりも、「画家とモデル」「古典神話」「創造性」「欲望」「自己省察」といった、ピカソが繰り返し取り組んだテーマが展開されています。

その中でも、ミノタウロスは特に重要な存在です。ギリシャ神話に登場するミノタウロスは、半人半獣の姿をしていますが、ピカソにとっては、非常に個人的な「分身」のような存在となりました。力強く、戯れるように見えることもあれば、傷つきやすく、あるいは破壊的な存在として描かれることもあります。ピカソはミノタウロスを通して、人間の内面にある相反する側面、そして自身のアイデンティティを探求することができたのです。

ある作品では、ミノタウロスが祝祭や欲望に囲まれている一方、別の作品では、傷つき、目を覆われ、あるいは暗闇の中を導かれています。こうした変化によって、この一連の作品には非常に豊かな感情の幅が生まれています。

ぜひ時間をかけて、これらの作品をじっくりとご覧いただきたいと思います。神話の背景をすべて知っていなくても、そこに描かれている感情は、直接的かつ普遍的に伝わってくるはずです。

1950〜60年代のリノカットから晩年の作品まで、ピカソはなぜ生涯にわたって版画技法の探求を続けたのでしょうか?

ピカソは、版画を絵画よりも二次的なものとして捉えることはありませんでした。彼にとって、それぞれの技法は異なる視覚言語であり、新たに取り組むべき課題だったのです。

生涯を通じて、エッチング、エングレーヴィング、ドライポイント、アクアチント、リトグラフ、リノカットなど、さまざまな技法に取り組みました。そして、それぞれの媒体でどこまで表現の可能性を広げられるのかを、絶えず試していました。

1950〜60年代のリノカットは、その特に印象的な例です。ピカソは、一般的にはシンプルで大胆なイメージに結びつけられることの多いこの技法を、高度に洗練された表現へと変化させました。色を重ね、強いコントラストを用いるだけでなく、同じ版木を少しずつ削りながら、その都度刷りを重ねていく、独創的な「減法的」な制作プロセスを用いています。

晩年になっても、その制作意欲が衰えることはありませんでした。版画という技法によって、同じモチーフを何度も見つめ直し、イメージを変化させたり、反転させたり、単純化したり、より表現豊かなものへと発展させたりすることができたのです。そのプロセスは、常に新しい可能性を探し続けたピカソの尽きることのない好奇心に、非常によく合っていたのだと思います。

これらの作品を通して、ピカソが確立されたスタイルをただ繰り返していたのではないことが分かります。彼は最後まで実験を続け、新たなイメージを生み出す方法を探求し続けたのです。

©Johnson for The New York Times
©Johnson for The New York Times

Tokyo Gendaiを訪れる日本のアートファンや来場者に、メッセージをお願いします。

Tokyo Gendaiに再び参加し、日本の皆さまにこれらの作品をご紹介できることを大変嬉しく思っています。

日本の方々は、おそらく多くの国の方々以上に、紙作品が単なる二次的なイメージや複製ではないことを自然に理解されているのではないでしょうか。木版画の長い歴史をはじめ、紙や印刷そのものへの細やかな感覚、そして刷りによって生じる微妙な違いを大切に鑑賞する文化など、これらの作品を魅力的なものにしている要素と、日本には深いつながりがあります。

ピカソ自身も、版画という技法が持つ物質的な可能性を絶えず探求していました。線をどのように刻むのか、インクが表面にどのように乗るのか、圧力によってイメージがどう変化するのか、そしてそれぞれの技法がどのように異なる感情的な効果を生み出すのか。私たちは、こうした作品の魅力が、日本の来場者の皆さまには特に強く響くのではないかと考えています。

ぜひブースに足を運び、作品を間近でじっくりとご覧ください。インクの深み、紙の質感、そして一枚一枚の刷りの違いは、スクリーンを通して完全に感じ取ることはできません。

ピカソの実験精神と、日本が誇る素晴らしい版画の伝統との間に、新たなつながりを発見していただければ嬉しく思います。

PABLO PICASSO
[Drawing] Femme et l'enfant, 1922
Red chalk drawing on wove paper with blindstamp "Montgolfier"
Signed by Picasso in ink, upper left
Sheet/Image: 9 1/4 x 12 7/16 inches
(Zervos vol. IV no.451).
PABLO PICASSO [Drawing] Femme et l'enfant, 1922 Red chalk drawing on wove paper with blindstamp "Montgolfier" Signed by Picasso in ink, upper left Sheet/Image: 9 1/4 x 12 7/16 inches (Zervos vol. IV no.451).

ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiでの展示を楽しみにしています。

一枚の違いに、作品のすべてが宿る。版画の奥深さを、会場で。

会期:
2026年9月11日 (金)〜13日 (日) *ヴェルニサージュは9月10日 (木) 

会場:
パシフィコ横浜

ブース:
John Szoke Gallery

チケット購入先:

©Johnson for The New York Times

John Szoke Gallery

John Szoke Galleryは、1974年の創業以来、紙作品を専門に扱ってきました。当初は現代作家の作品の出版・取扱いからスタートし、その後、近代美術の巨匠たちへと活動の軸を広げ、最終的には、版画という表現を新たな芸術の高みへと押し上げた革新的な2人の作家、パブロ・ピカソとエドヴァルド・ムンクの作品に焦点を当てるようになりました。

こうした専門性の高い活動を通して、当ギャラリーでは、エディション作品としての版画だけでなく、異なるステート(刷りの段階)や試し刷り、色彩のバリエーション、刷師の違い、そして一枚一枚の個別の刷りによって、一つのイメージがどのように発展していったのかを紹介しています。これにより、それぞれの作品を、その芸術的・歴史的背景とともに捉えることができます。

50年以上にわたり、世界各地の主要美術館や研究者、個人コレクターと緊密に連携してきました。作品の評価やカタログ化における専門性、研究と作品へのアクセスを重視する姿勢、そしてピカソとムンクによる希少性と品質に優れた作品のコレクションを通じて、国際的な評価を築いてきました。

John Szoke Galleryは、Art Dealers Association of America(ADAA)およびInternational Fine Print Dealers Association(IFPDA)の会員です。経験豊富なコレクターの方はもちろん、これからコレクションを始める方、そしてアートや版画、歴史に関心を持つすべての方を歓迎しています。

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