日本の陶芸はいま、伝統工芸という枠組みを越え、現代美術として世界から注目を集め始めている。その最前線を走るアーティストのひとりが氏家昂大(Kodai Ujiie)だ。大胆なスケールと圧倒的な存在感を放つ作品は、ニューヨークをはじめ海外でも高い評価を受け、日本独自の美意識を現代的な表現へと更新している。
Tokyo Gendaiでは、その迫力を実際の空間で体感できる貴重な機会となる。作品の前に立ったときに初めて感じられる質感、光、スケール、そして生命の気配——。画面越しでは決して味わえない体験がそこにある。本インタビューでは、Kodai Ujiieが世界へ向けて発信する創作の現在地と、その先に描く未来について話を聞いた。
あなたの制作活動を、まだ作品を見たことがない人に向けて教えてください。
私は陶芸という素材を通して、「生命とは何か」という問いを制作しています。
作品には、細胞が増殖するような有機的な形態や、皮膚や臓器を思わせる質感が現れます。一方で、その根底には日本の「わび」の思想があります。
私は、わびを「完成された美しさ」ではなく、「未完成で、変化し続ける存在を受け入れる美意識」と捉えています。
私はこの考えを「Biological Chaos Wabi(異形わび)」と呼んでいます。
生命は決して均整が取れたものではありません。揺らぎや傷、変化や不完全さを抱えながら存在しています。私の作品は、その不安定さそのものを肯定し、生命が生成し続ける瞬間を形にしたいと考えています。
氏家さんの代名詞である「漆貫入彩(うるしかんにゅうさい)」は、焼き物の亀裂(貫入)に漆を染み込ませることで、まるで透けた皮膚の下をのぞく毛細血管のような、痛々しくも鮮烈な生命感を放っています。ご自身の幼少期の手術経験といった「生と死の記憶」は、この独自の技法や、うねるような有機的なフォルムにどのように昇華されているのでしょうか?
私は生まれつき左耳がない状態で生まれ、幼い頃に左耳の形成手術を受けました。
その経験によって、自分の身体でありながらどこか異物のようにも感じる、不思議な感覚を抱くようになりました。その感覚は成長してからも消えることはなく、自分の中で「身体とは何か」「生命とは何か」を考える原点になっているように思います。
漆貫入彩では、焼成によって生まれた無数の貫入に漆を染み込ませています。その線は血管のようでもあり、傷跡のようでもあり、生命が内側に宿っていることを感じさせる痕跡でもあります。
また、作品のうねるような有機的なフォルムも、人体を直接表現しているわけではありません。生命が絶えず変化し、増殖し、境界を曖昧にしながら存在している、その曖昧で不安定な感覚を形にしたものです。
私にとって制作とは、幼い頃から抱えてきた身体への違和感や異物感を、否定するのではなく受け入れ、新しい美しさへと昇華していく行為なのだと思っています。
黄瀬戸や織部といった日本の伝統的な陶芸の文脈をベースにしながら、同時に現代のファッションやストリートのようなエネルギッシュな感性も息づいているように感じられます。制作において、そうした伝統と現代の感覚が混ざり合い、最もインスピレーションを受けるのはどんな瞬間ですか?
私が黄瀬戸や織部といった伝統的なやきものをモチーフにするのは、日本の美意識の原点と対話したいからです。
黄瀬戸や織部には、「わび」をはじめとする日本独自の美意識が深く息づいています。私はその歴史や価値を再現することが目的ではありません。そこに流れる精神を現代に引き継ぎ、新しいかたちへと変化させたいと考えています。
私の作品は、伝統的な器の輪郭を出発点としながら、生命が増殖し変形していくような有機的なフォルムへと変化していきます。それは、伝統を壊すためではなく、生命のように進化し続けるものとして捉え直す試みです。
私にとって黄瀬戸や織部は、過去の様式ではなく、日本人が長い時間をかけて育んできた美意識の「DNA」のような存在です。そのDNAを受け継ぎながら、現代の感覚と自分自身の経験を重ね合わせ、「Biological Chaos Wabi(異形わび)」という新しい表現へと発展させています。
2022年にマイアミのアートフェアを訪れたことを機に、「日本のモノ作り・陶芸を背負って世界と対峙する」というグローバルな視点を強く意識されたと伺いました。近年、ニューヨークでの個展や海外での展開を経て、ご自身の作品が持つ「わびさび(Wabi-sabi)の解釈」や、表現のスケール感にどのような変化が生まれていますか?
2022年にマイアミを訪れたことは、大きな転機でした。
世界中のアートが集まる現場で、日本の陶芸がまだ十分に語られていない可能性を強く感じました。
それ以降、「日本の陶芸を世界へ紹介する」のではなく、「日本の陶芸だからこそ世界の現代美術に新しい価値を提示できる」という意識へ変わりました。
また、「わびさび」という言葉も、海外では「古いもの」「静かなもの」というイメージで理解されることが少なくありません。
私はそれを、「変化し続ける生命を受け入れる哲学」として捉え直しています。
その考えが作品のスケールにも現れ、大壺のような大型作品では、鑑賞者が作品を眺めるだけでなく、生命空間そのものと向き合うような体験をつくりたいと思うようになりました。
世界中から多様なコンテンポラリーアートやコレクターが集まるTokyo Gendaiの会場で、あなたのダイナミックな大壺や作品と対峙する観客、そしてこれからの日本のアートシーンに対して、どのようなメッセージを投げかけたいですか?
私の作品は、「正解となる見方」を用意していません。
生命のように、見る人それぞれが異なる感覚や記憶を重ねながら、自分自身と向き合う時間になれば嬉しいと思っています。
そして日本のアートシーンには、もっと自由に世界へ挑戦してほしいと願っています。
日本には何百年も積み重ねられた技術や思想があります。しかし、それは過去を守るためだけに存在するものではなく、新しい価値を生み出すための土台でもあります。
私自身も、陶芸という枠組みにとらわれず、日本から世界へ新しい美意識を提示し続けたいと思っています。
Tokyo Gendaiという国際的な場で、その対話が始まることを楽しみにしています。
ありがとうございました。9月のTokyo Gendaiでの展示を楽しみにしています。
氏家昂大(Kodai Ujiie)が生み出す生命のかたちを、ぜひ会場で。
会期:
2026年9月11日 (金)〜13日 (日) *ヴェルニサージュは9月10日 (木)
会場:
パシフィコ横浜
ブース:
Lux Feminae
チケット購入先:
氏家昂大
氏家昂大(1990年生まれ、日本)は、日本人アーティスト。2013年に東北芸術工科大学芸術学部美術科工芸コースを卒業し、2015年に同大学大学院修士課程芸術文化専攻工芸領域を修了。
これまでに、銀座・東京の Ippodo Gallery Ginza 、日本橋髙島屋S.C.(東京)、 The Stratford Gallery 、 Ippodo Gallery New York 、B-OWND Gallery(東京)、Bernheim Gallery(英国)など、国内外で個展を開催している。
また、Design Miami、COLLECT、Independent、Salon Art + Design、Material、Aspen Art Fair、ZⓈONAMACO、FOG Design + Art、Design Seoul、Tokyo Gendaiなど、主要な国際アートフェアにも出展。
作品は、米国のWarehouse Art Museumや Seattle Art Museum をはじめとする公共コレクションに収蔵されている。





